解決事例

施設入居中の父の実家を娘が管理・売却|家族信託の解決事例

✏️事例の概要

  • 相談者:80代・男性(老人ホーム入居中)とその娘さん
  • 相談内容:年金だけでは施設の費用が足りず、実家をいずれ売却したい。ただし当面は賃貸も考えたい
  • 主な手続き:家族信託契約の設計・締結、所有権移転登記と信託登記

「実家をいつ売るかは、まだ決められない。でも、その判断を自分ができなくなったときが不安」——今回の事例は、そんなご相談から始まりました。老人ホームに入居中のお父様が、まだご自分の意思をはっきりお持ちのうちに、実家をどう活用するかの判断を娘さんに託した事例です。

相談のきっかけ|年金だけでは施設費用が足りない

ご相談に来られたのは、80代のお父様(Aさん)と、娘さんおふたり(Bさん・Cさん)のご家族です。Aさんは奥様を亡くされてから少し物忘れが出てきたものの、ご自分の考えははっきりお持ちの状態でした。現在は老人ホームに入居し、日々のお金の管理はBさんが担っています。

Aさんの財産は、数百万円の預金と、住まなくなった自宅の土地建物です。収入は年金だけで、そこから施設の費用を払うと毎月の収支は赤字になります。そこで、いずれは自宅を売却して介護費用に充てたいと考えていました。

ただ、Aさんの希望はもう少し細かいものでした。いますぐ売るのではなく、それまでは人に貸してもよい。貸したときは、維持費などの経費を引いた残りを介護費用に充てたい。売らなければならなくなったら、そのときに売ればよい。そして、自分がいつまで判断できる状態でいられるか分からないので、その判断はBさんに任せたい——というものでした。

相談内容と課題の整理

いますぐ売らず、貸すか売るかを選べる状態にしたい

Aさんの希望を整理すると、実家について「貸す」「売る」のどちらも選べる状態にしておきたい、というものでした。施設費用の不足を賃貸収入でまかなえる間はそれで足り、まとまった資金が必要になれば売却する。その判断を、状況を見ながら行いたいということです。

問題は、その判断をAさん自身がいつまでできるか分からない点にありました。

判断能力が低下すると、実家を動かせなくなる

Aさんの判断能力が低下した後は、預金の管理も実家の賃貸・売却も、Aさん本人では進められなくなります。その場合は成年後見制度を利用することになりますが、この事例では次の2点が課題になりました。

  • 後見人は家庭裁判所が選任するため、Bさんが必ず後見人になるとは限らない
  • 本人の居住用不動産を売却・賃貸するには、家庭裁判所の許可が必要になる民法第859条の3

成年後見は本人の財産を守るための制度であり、こうした手続きはそのために設けられています。ただ、Aさんが望んでいた「状況を見ながら貸すか売るかを決める」という進め方は、この枠組みの中では取りにくくなります。

解決のポイント|家族信託で娘に管理を託した

当事務所からは、選択肢のひとつとして家族信託をご提案しました。Aさんがご自分の意思をはっきり示せる今の段階であれば、AさんとBさんの間の契約で、実家の管理をBさんに託せるためです。Aさんは検討のうえ、家族信託を選ばれました。

契約で「貸す・売る」の判断を任せられるようにした

信託契約では、受託者(財産を託されて管理する人)であるBさんが実家をどう扱えるかを決めておきます。この事例では、賃貸に出すことも売却することもBさんの判断で進められる内容にしました。信託の利益を受けるのはAさん本人なので、賃貸収入から経費を引いた分は、Aさんの介護費用に充てられます。

Aさんの判断能力が低下した後も、Bさんは契約にもとづいて実家の賃貸や売却を続けられます。これは、Aさんが契約の内容を理解し、意思を示せる段階で信託を設定できたためです。

不動産は所有権移転登記と信託登記をあわせて申請した

実家を信託財産にするため、法務局へ受託者であるBさんへの所有権移転登記と信託登記をあわせて申請しました。登記簿には、その不動産が信託財産であることと、信託の内容が記録されます。名義はBさんに変わりますが、Bさんが自由に使える財産になるわけではなく、契約で決めた目的に沿って管理する義務を負います。

税金の扱いは事前に確認しておく

家族信託では、信託財産から生じる収益は受益者(信託の利益を受ける人)のものとして扱われます。この事例ではAさんが受益者なので、賃貸収入はAさんの収入になります。

ただし、信託した不動産から損失が出た場合、その損失を他の所得と通算できないという制限があります。賃貸に出す予定がある場合は、税理士に確認したうえで設計を決めます。

信託の設定後、Bさんは実家を賃貸に出し、収益から経費を引いた分をAさんの介護費用に充てる運用を始めました。将来売却が必要になったときも、Bさんの判断で手続きを進められる状態です。

家族信託についてもっと知りたい方へ

この事例で使った家族信託について、制度のしくみや他の制度との違い、実際の手続きは、それぞれ別の記事で解説しています。

同じお悩みをお持ちの方へ

実家の管理や施設費用の準備をどう進めるかは、ご家族の状況や財産の内容によって変わります。家族信託を設定できるのは、ご本人が契約の内容を理解し、意思を示せる段階に限られます。気になった時点で、目的・対象財産・担い手を整理するところからご相談ください。個別の設計や費用については、司法書士事務所の家族信託ページもあわせてご覧ください。

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