事業承継の遺留分対策|自社株の除外合意・固定合意の違いと手続き

会社を後継者にしっかり引き継いでもらうために、自社の株式を後継者に集めたい。そう考えたときに問題になるのが、ほかの家族の遺留分です。株式を後継者に贈与しても、経営者が亡くなったとき、ほかの子などから遺留分に相当するお金の支払いを求められることがあります。

この問題に備えて、経営承継円滑化法には、後継者が贈与を受けた株式を遺留分の計算から外す「除外合意」と、計算に入れる価額を固定する「固定合意」という特例があります。ただし、推定相続人全員の合意と、経済産業大臣の確認、家庭裁判所の許可が必要です。

この記事では、遺留分の仕組み、除外合意と固定合意の違い、使える条件、合意する人、手続きの流れを、経営者と後継者の方に向けて説明します。

後継者に株式を渡すときは、ほかの家族の遺留分も確認する

会社を安定して引き継ぐために、経営者が自社の株式を後継者に集めたいと考えるのは自然なことです。ただ、株式を後継者に集めると、ほかの家族の「遺留分」と食い違うことがあります。株式をどう渡すかを決める前に、遺留分の仕組みを知っておく必要があります。

遺留分とは:子などに保障された最低限の取り分

遺留分とは、亡くなった方の配偶者・子・父母などに、法律で保障されている最低限の取り分です(民法1042条)。遺言や生前の贈与で、特定の人に財産を集めても、ほかの相続人の遺留分まではなくせません。兄弟姉妹には遺留分がありません。

生前に贈与した株式も、遺留分の計算に入る

遺留分を計算するときは、亡くなったときの財産だけでなく、生前に贈与した財産も一定の範囲で加えます(民法1043条・1044条)。相続人である後継者に贈与した株式は、原則として、亡くなる前10年以内の贈与で、生活の元手などとして渡したもの(特別受益)が計算に入ります。株式は、贈与したときではなく、亡くなったときの価額で計算します。

後継者が会社を成長させて株式の価値が上がると、その分、ほかの家族の遺留分も大きくなります。後継者の努力が、かえって後継者の負担を増やすことになりかねません。

今の遺留分は「お金で支払う」請求

遺留分を侵害された相続人は、多く受け取った人に対して、侵害された額に相当するお金の支払いを求めることができます(遺留分侵害額請求、民法1046条)。2019年7月1日より前に始まった相続(亡くなった日がそれより前の相続)では、株式そのものを取り戻す「遺留分減殺請求」でしたが、2019年7月1日以降に始まった相続では、原則としてお金での請求です。

株式が分散するおそれは小さくなりましたが、そのかわり、後継者は、ほかの家族にお金を支払う資金を用意しなければならないことがあります。会社の株式は簡単に売れないため、後継者の手元に資金がないと、支払いが大きな負担になります。

経営承継円滑化法には、遺留分の計算についての特例がある

後継者に株式を集めたときの遺留分の問題に備えて、経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)には、遺留分の計算についての特例があります。経営者の推定相続人と後継者が全員で合意し、決められた手続きを経ると、後継者が贈与を受けた株式を、遺留分の計算から外したり、計算に入れる価額を固定したりできます。

同じ法律にもとづく制度として、相続税・贈与税の納税を猶予する「事業承継税制」もありますが、これとは別の制度です。遺留分の特例は家族の間の取り分の計算についての特例で、税金の額を変えるものではありません。

使える会社・後継者・株式には条件がある

この特例は、どの会社でも、後継者になる予定の人なら誰でも使えるわけではありません。主な条件は次のとおりです(経営承継円滑化法3条・4条)。

対象 主な条件
会社 中小企業で、一定期間以上事業を続けていること。株式を上場していないこと
経営者(旧代表者) 会社の代表者である(またはあった)人で、後継者に株式を贈与した人
後継者 経営者から株式の贈与を受けた人で、会社の議決権の過半数を持ち、かつ会社の代表者になっている人
合意の対象の株式 経営者から贈与を受けた株式。合意の対象の株式を除いても後継者が議決権の過半数を持っている場合は、この特例を使えない

表のとおり、後継者が株式の贈与を受けて代表者になっていることが前提です。まだ代表者になっていない後継者候補や、これから株式を渡す予定の段階では、そのままでは使えません。この特例は、株式の生前贈与と、後継者の代表者への就任とを組み合わせて計画する必要があります。

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個人事業の事業用の財産(土地・建物など)についても、似た特例があります。この記事では、株式会社の株式を後継者に渡す場合を説明しています。

除外合意と固定合意の違い

遺留分の特例には、除外合意と固定合意の2つがあります。どちらか一方だけでも、両方を組み合わせることもできます(経営承継円滑化法4条1項)。

✏️除外合意と固定合意の比較

除外合意 固定合意
内容 贈与を受けた株式を、遺留分の計算に入れない 贈与を受けた株式を計算に入れる価額を、合意したときの価額に固定する
向いている場面 株式をほかの家族の遺留分から完全に切り離したい 後継者の努力で株式の価値が上がっても、その分の遺留分を増やしたくない
必要なこと 推定相続人と後継者の全員の合意 全員の合意に加え、合意したときの株式の価額について、弁護士・公認会計士・税理士などによる証明
注意点 ほかの家族の取り分が大きく減るため、合意を得るための調整が必要 合意後に株式の価値が下がると、後継者にとって不利になることがある

数字で見る違い(説明のための架空の例)

経営者が後継者に株式を贈与し、その後、合意したときの株式の価額は1,000万円(専門家が証明した価額)、経営者が亡くなったときには会社の成長で3,000万円になっていたとします。特例を使わない場合は、この贈与が遺留分の計算に入るもの(相続人への贈与で、亡くなる前10年以内の特別受益にあたるもの)だったとします。遺留分の計算に入る株式の価額は、次のように変わります。

合意の内容 遺留分の計算に入る株式の価額
特例を使わない 3,000万円(亡くなったときの価額)
固定合意 1,000万円(合意したときの価額)
除外合意 0円(計算に入れない)

この例は、遺留分を計算するときの株式の価額だけを比べたものです。相続税や贈与税の額を比べたものではありません。

固定合意で、相続税の評価は固定されない

固定合意で固定されるのは、遺留分を計算するときの株式の価額だけです。相続税や贈与税を計算するときの株式の評価は、固定合意とは別に、税法のルールで決まります。固定合意をしたからといって、相続税が増えたり減ったりするわけではありません。

また、固定合意の価額を証明できるのは、弁護士・公認会計士・税理士などに限られ、経営者本人や後継者は証明できません(経営承継円滑化法4条1項2号・2項)。

誰と合意し、何を事前に確認するか

遺留分の特例は、経営者の推定相続人と後継者の全員が、書面で合意することが前提です(経営承継円滑化法4条1項)。一人でも合意しなければ使えません。

合意するのは、推定相続人と後継者の全員

推定相続人とは、今、経営者が亡くなったとしたら相続人になる人のことです。この特例では、配偶者や子など、遺留分を持つ人が対象で、兄弟姉妹とその子は含まれません(同法3条6項)。後継者が経営者の子であれば、後継者も推定相続人の一人として合意に加わります。

「家族で話し合って一筆書けば済む」と考えられがちですが、合意書を作っただけでは効力は生じません。後で説明する経済産業大臣の確認と、家庭裁判所の許可が必要です。家庭裁判所は、合意が全員の本心から出たものかを確かめます(同法8条2項)。

後継者が株式を手放したときなどの定めが必要

除外合意や固定合意をするときは、あわせて、次の場合にほかの推定相続人がとれる措置を、合意で決めておかなければなりません(同法4条4項)。

  • 後継者が、合意の対象にした株式を売ったり贈与したりしたとき
  • 経営者が生きているうちに、後継者が代表者として経営に携わらなくなったとき

株式を後継者に集めるのは会社を引き継いでもらうためなので、後継者が株式を手放したり経営から離れたりした場合に、ほかの家族がどうできるかを先に決めておく仕組みです。

任意で加えられる合意もある

必要な合意とは別に、全員の合意で、次の内容を加えることもできます(同法5条・6条)。

  • 後継者が株式以外に贈与を受けた財産(たとえば事業に使う不動産)も、遺留分の計算に入れない
  • 後継者以外の推定相続人が受けた贈与を、遺留分の計算に入れない(家族の間のバランスをとるため)

合意の効力がなくなる場合もある

許可の審判が確定した後でも、経営者が生きているうちに後継者が亡くなった場合や、合意した後に新しく推定相続人になった人(たとえば経営者が再婚した相手や、新たに養子になった人)がいる場合などは、合意の効力が失われます(同法10条)。

合意から効力が生じるまでの流れ

遺留分の特例は、合意書を作っただけでは効力が生じません。経済産業大臣の確認を受け、家庭裁判所の許可の審判が確定して、初めて効力が生じます(経営承継円滑化法7条・8条)。

✏️遺留分の特例の流れ

1
条件と資料を確認する
会社と後継者が条件を満たすか(後継者が代表者か、議決権の過半数を持つか)、推定相続人が誰かを確認する
2
合意書を作り、全員が署名する
除外合意・固定合意と、後継者が株式を手放したときなどの定めを書面にする。固定合意なら、専門家による価額の証明もそろえる
3
経済産業大臣に確認を申請する
後継者が、合意した日から1か月以内に申請する
4
家庭裁判所に許可を申し立てる
確認を受けた後継者が、確認を受けた日から1か月以内に申し立てる
5
許可の審判が確定すると、合意の効力が生じる
家庭裁判所は、合意が全員の本心から出たものかを確かめたうえで許可する

期限は2つあり、数え始める日が違います。経済産業大臣への申請は「合意した日」から、家庭裁判所への申立ては「確認を受けた日」から、それぞれ1か月以内です。この期限は申請・申立てをする期限で、1か月以内に確認や許可が出るという意味ではありません。

合意書の作成から申請・申立てまでの期間は短いため、合意する前に、条件を満たしているかと必要な資料を確かめておきます。期限を過ぎると、この流れで特例を使うことはできません。

遺言や税金の対策とは、役割を分けて考える

事業承継では、遺言、遺留分の特例、税金の特例(事業承継税制)がよく一緒に話題になりますが、それぞれ目的が違います。どれか1つで全部が解決するわけではありません。

制度 目的・できること 主な相談先
遺言 亡くなった後、誰に何を相続させるかを決める。ただし、ほかの家族の遺留分まではなくせない 司法書士・弁護士など
遺留分の特例(除外合意・固定合意) 生前に贈与した株式を、遺留分の計算から外したり、計算に入れる価額を固定したりする 合意の内容は弁護士など。固定合意の価額の証明は弁護士・公認会計士・税理士など
事業承継税制(納税猶予) 一定の要件のもとで、株式にかかる相続税・贈与税の納税を猶予する 税理士

たとえば、遺言で株式を後継者に相続させると決めても、ほかの家族の遺留分は残ります。遺留分の特例は、生前に贈与した株式についての特例なので、遺言で渡す株式には使えません。どの方法を組み合わせるかは、会社の状況と家族の関係によって変わります。

株式の税務上の評価や事業承継税制は税理士の分野、合意の内容をめぐる調整や争いは弁護士の分野です。当事務所では、税理士・弁護士とチームを組んで対応しています。事業承継の全体像は「事業承継」、生前に株式を渡す方法は「自社株式を後継者に引き継ぐには|生前に確認したいこと」、遺言の基本は「遺言書作成は何から始める?」で説明しています。

相談の前に整理しておきたいこと

遺留分の特例を使うかどうかは、会社の状況と家族の関係を見てからでないと判断できません。専門家に相談する前に、次のものを整理しておくと、話が早く進みます。

  • 会社の資料:登記事項証明書、定款、株主名簿
  • 株式の状況:今の株主構成、後継者にすでに贈与した株式やこれから贈与する予定の株式
  • 後継者の状況:代表者になっているか、なる予定の時期
  • 家族の関係:推定相続人が誰か(配偶者・子など)、それぞれの考え
  • すでにある遺言や、家族の間で決めていること

合意の期限は短く、合意には推定相続人全員の協力が必要です。株式の贈与や後継者の代表者への就任を進める前の段階で、全体の計画を立てておくことをおすすめします。

株式の引き継ぎと家族の調整、合意の前にご相談ください

「後継者に株式を集めたいが、ほかの子の遺留分が気になる」「特例を使える状況か分からない」など、合意の前に会社と家族の状況を整理することが大切です。当事務所では、会社の登記や株主構成、家族関係の確認から、遺言の作成、後継者の代表者就任の登記まで、状況に合わせてお手伝いします。税務や合意の内容は、税理士・弁護士とチームを組んで対応します。

遠方の方・外出が難しい方はオンラインでのご相談も可能です

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