公正証書遺言とは?費用・必要書類・証人・死亡後の手続きを解説

公正証書遺言を作ろうと決めたものの、費用がいくらかかるのか、何を用意すればよいのか、証人を誰に頼めばよいのか。調べ始めると、分からないことが次々に出てきます。

公正証書遺言は、遺言の内容を公証人に伝え、公証人が公正証書として作成する遺言書です。原本は公証役場が保管するため、紛失や書き換えの心配がなく、亡くなった後に家庭裁判所の検認を受ける必要もありません。

このページでは、作成の流れ、公証人手数料の決まり方、必要書類、証人になれる人・なれない人、そして亡くなった後にご家族が行う手続きまでを順に説明します。公正証書遺言でも無効を主張されることがあるのか、遺留分とはどう関係するのかといった、作る前に知っておきたい注意点も取り上げます。

公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、遺言の内容を公証人に伝え、公証人が公正証書として作成する遺言書です民法第969条。作成には証人2人以上の立会いが必要で、完成した遺言書の原本は公証役場が保管します。

公証人は、法務大臣が任命する法律の専門家です。遺言の内容が法律的に成り立つかを確認しながら文面を整えるため、書き方の不備で遺言が使えなくなる心配がほとんどありません。

遺言者の手元には、原本と同じ内容の正本と謄本が交付されます。これらを紛失しても原本は公証役場に残るため、遺言そのものが失われることはありません。

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公正証書の作成手続きは2025年10月1日にデジタル化されました。遺言公正証書の原本は電子データとして作成・保存され、当日は遺言者と証人が画面に電子サインをする方法に変わっています。押印は不要です。手続きの内容そのものが変わったわけではなく、書面が電子データに置き換わったとお考えください。

制度上はウェブ会議を使った作成も可能になりましたが、当事務所が複数の公証役場に問い合わせた時点では、まだ対応していないとの回答でした。現時点では、公証役場に出向くか、公証人に出張してもらう方法で進めることになります(2026年8月現在)。

自筆証書遺言との違い

いちばん大きな違いは、文面を作る人が誰かという点です。自筆証書遺言は遺言者が全文を手書きしますが、公正証書遺言は公証人が作成します。

✏️自筆証書遺言と公正証書遺言の違い

  自筆証書遺言 公正証書遺言
文面を作る人 遺言者が全文を手書き 公証人
方式の不備で無効になる危険 ある 公証人が関与するため小さい
証人 不要 2人以上必要
検認 必要(法務局に預けた場合は不要) 不要
原本の保管 自宅など。法務局に預ける制度もある 公証役場
費用 作成自体はかからない 政令で定められた公証人手数料
字が書けなくなった場合 利用できない 作成できる

表の最後の行は見落とされがちですが、実務では大切な違いです。自筆証書遺言は財産目録を除いて全文を手書きする必要があるため、病気などで手が不自由になった方は使えません。公正証書遺言なら、遺言者が署名できない状態であっても、公証人がその理由を書き添えて署名に代えることが法律で認められています。

一方で、公正証書遺言には費用がかかり、証人2人を用意する必要もあります。どちらの方式にも向き不向きがあるため、財産の内容や体調、ご家族の状況に合わせて選んでください。

公正証書遺言のメリット・注意点

公正証書遺言の強みは、形式の不備で遺言が使えなくなる事態と、紛失・改ざんをほぼ避けられることです。一方で、費用と手間はかかり、遺留分をめぐる争いまで防げるわけではありません。

メリット|形式の不備・紛失を避けられ、検認も不要

公正証書遺言を選ぶ理由は、大きく3つあります。

  • 方式の不備で無効になるおそれがほとんどない:文面を作るのが公証人のため、日付や署名の書き方といった形式面で遺言が無効になる心配がありません。内容が複雑な場合でも、法律的に整理した文面にしてもらえます。
  • 紛失・破棄・改ざんの心配がない:原本は公証役場が保管します。手元の正本や謄本をなくしても、遺言そのものが失われることはありません。自宅に置いた遺言書を、内容を知った人に処分されるといった事態も避けられます。
  • 家庭裁判所の検認が不要:自宅などで保管された自筆証書遺言は、亡くなった後に検認を受ける必要がありますが、公正証書遺言には検認が要りません民法第1004条第2項

検認には、戸籍の収集から申立て、期日への出席までひととおりの手間がかかります。これを省けることは、残されたご家族にとって実際の負担軽減になります。

注意点|費用・証人・遺留分の問題は残る

一方で、次の点は公正証書遺言でも解消されません。

  • 費用がかかる:公証人手数料は政令で決まっており、財産の額と、財産を受け取る人の数によって変わります。
  • 証人2人が必要:誰でもよいわけではなく、財産を受け取る予定の方やそのご家族は証人になれません。
  • 証人には内容が伝わる:証人は遺言の内容を確認する立場のため、内容を完全に秘密にしたまま作ることはできません。
  • 遺留分の問題は残る:兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限の取り分があり民法第1042条、これを下回る内容にすると、後から金銭の支払いを請求されることがあります民法第1046条
  • 判断能力を争われる可能性は残る:公証人が遺言者の判断能力を確認したうえで作成しますが、後になって「作成した時点で判断能力がなかった」と主張されることがないとは言い切れません。
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「公正証書遺言にすればもめない」と説明されることがありますが、公正証書遺言が確実に防げるのは、方式の不備による無効と、紛失・改ざんです。遺留分にもとづく金銭の請求や、判断能力を理由とする争いまで防げるわけではありません。もめる可能性が心配な場合は、方式を選ぶことよりも、誰にどれだけ残すかという内容そのものを検討する必要があります。

作成の流れ

公正証書遺言は、公証人と数回やりとりをして内容を固めたうえで、決めた日に公証役場で作成します。当日いきなり出向いて作れるものではありません。

遺言者ご本人が直接公証役場に連絡して申し込むこともできますし、司法書士などの専門家に依頼して進めることもできます。専門家に依頼する場合は、財産の調査や必要書類の取り寄せ、公証人との事前の打ち合わせを任せられます。

✏️公正証書遺言ができるまで

1

公証人に相談・依頼する

公証役場に電話やメールで連絡し、遺言を作りたい旨を伝えます。遺言者ご本人が直接申し込むこともできますし、司法書士などの専門家に依頼して進めることもできます。

2

メモと資料を提出する

どの財産を誰にどれだけ残したいかを書いたメモと、戸籍謄本や不動産の登記事項証明書などの資料を提出します。メール・ファックス・郵送でも、持参してもかまいません。

3

遺言の案を確認して修正する

公証人が提出内容をもとに遺言の案を作り、メールなどで示します。直したい箇所を伝えると公証人が修正し、内容を確定させます。ここで納得できるまでやりとりしてください。

4

作成する日を決める

案が固まったら、公証人と打ち合わせて作成日を決めます。体調などの事情で公証役場に行けない場合は、公証人にご自宅や病院、施設まで出張してもらうこともできます。

5

当日、証人2人の立会いのもとで作成する

遺言者が証人2人の前で遺言の内容を口頭で伝え、公証人が本人の意思であることを確認します。用意された原本の内容を確認したうえで、遺言者と証人が電子サインをし、公証人が電子署名をして完成します。

当日の所要時間は、内容にもよりますが30分程度をみておいてください。事前に案を固めてあるため、当日に文面を一から検討することはありません。

遺言は、ご本人が自分の意思で内容を決めるものです。当日も、財産を受け取る立場のご家族には席を外してもらう運用が取られています。付き添いで公証役場まで同行しても、遺言の場に同席はできないとお考えください。ご家族が手続きを主導した形になると、後から「本人の意思ではなかったのではないか」と争われる材料にもなりかねません。

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相談から作成までは、資料がそろっていれば2週間から1か月程度が目安です。ただし、戸籍を取り寄せる範囲が広い場合や、不動産の資料集めに時間がかかる場合はもう少し要します。ご本人の体調に不安があるときは、資料集めと並行して公証人に事情を伝えておいてください。

費用・手数料

公正証書遺言の費用は、公証人に支払う手数料と、専門家に依頼する場合の報酬の2つに分かれます。このうち公証人手数料は政令で決まっているため、どの公証役場でも同じです(金額は2026年8月現在)。

公証人手数料の決まり方

手数料は、財産の総額に対して1つの金額が決まるのではありません。財産を受け取る人ごとに金額を計算し、それを合算します。ここを誤解していると、見当をつけた金額と実際が食い違います。

計算は次の3段階で進みます。

  1. 財産を受け取る人ごとに、その人が受け取る財産の価額を出す
  2. それぞれの価額を下の基準表に当てはめて、手数料を求める
  3. 全員分を合算し、財産の総額が1億円以下であれば13,000円を加算する(遺言加算)

✏️公証人手数料の基準(受け取る人ごとの価額)

受け取る財産の価額 手数料
50万円以下 3,000円
50万円超100万円以下 5,000円
100万円超200万円以下 7,000円
200万円超500万円以下 13,000円
500万円超1,000万円以下 20,000円
1,000万円超3,000万円以下 26,000円
3,000万円超5,000万円以下 33,000円
5,000万円超1億円以下 49,000円

1億円を超える場合は、1億円超3億円以下なら4万9,000円に超過額5,000万円ごとに1万5,000円を加算する、といった形で別に定められています。

✏️計算例:財産3,000万円の場合

例1:妻に全財産3,000万円を相続させる

  • 妻が受け取る3,000万円分 … 26,000円
  • 遺言加算(総額1億円以下のため) … 13,000円
  • 合計 39,000円

例2:妻に1,500万円、長男に1,500万円を相続させる

  • 妻が受け取る1,500万円分 … 26,000円
  • 長男が受け取る1,500万円分 … 26,000円
  • 遺言加算 … 13,000円
  • 合計 65,000円

財産の総額は同じ3,000万円でも、受け取る人が2人になると手数料は26,000円増えます。人数が増えるほど手数料も上がる仕組みです。

このほかに、次の費用がかかります。

  • 正本・謄本の交付:書面で受け取る場合は1枚につき300円、電子データで受け取る場合は各1通2,500円です。
  • 原本が3枚を超える場合:超える1枚につき300円が加算されます。
  • 公証人に出張してもらう場合:手数料が50%加算されるほか、日当(1日2万円、4時間以内は1万円)と交通費が必要です。
⚠️

ここで示した金額は、財産の内容と受け取る人が決まっている前提での目安です。実際の手数料は、不動産の評価額の出し方、財産をどう分けるかの組み合わせ、相続させるのか遺贈するのかといった事情によって変わります。正確な金額は、遺言の案がまとまった段階で公証人にご確認ください。案ができていれば、その内容にもとづいて手数料を算出してもらえます。なお、公証役場に相談すること自体に手数料はかかりません。

専門家に依頼する場合の費用

専門家に依頼する場合の報酬は、公証人手数料とは別にかかります。依頼できる内容は、遺言の原案づくり、戸籍や登記事項証明書などの資料の取り寄せ、公証人との事前の打ち合わせ、証人の引き受け、そして亡くなった後の遺言の執行などに分かれます。

金額は事務所によって異なり、どこまで依頼するかによっても変わります。見積もりを取るときは、金額だけでなく「どの作業までが含まれているか」をあわせて確認してください。とくに遺言の執行を依頼するかどうかは、亡くなった後のご家族の負担に直結するため、作成の段階で決めておくことをおすすめします。

必要書類と準備するメモ

公証人に渡すものは2種類あります。本人・相続人・財産を確認するための公的な書類と、どの財産を誰に残したいかを書いたメモです。

このうち手間がかかるのは書類のほうですが、遺言の中身を決めるのはメモです。メモの内容がそのまま遺言の案になるため、ここが曖昧だと打ち合わせが何度も往復します。

用意する書類

✏️公正証書遺言の必要書類

書類 必要になる場面 補足
印鑑登録証明書(3か月以内に発行されたもの) 常に必要 運転免許証・旅券・マイナンバーカードなど、官公署が発行した顔写真付きの身分証明書で代えることもできます
戸籍謄本・除籍謄本 常に必要 遺言者と相続人の続柄が分かるもの
受け取る人の住民票など 相続人以外の方に遺贈する場合 住所が記載された手紙やハガキでも構いません。法人に遺贈する場合は登記事項証明書または代表者事項証明書
登記事項証明書と固定資産評価証明書 不動産を残す場合 評価証明書の代わりに、固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書でも構いません
預貯金通帳またはそのコピー 口座を特定して残す場合 「預貯金はすべて長男に」のようにまとめて残すときは、提出を求められないこともあります
証人予定者の氏名・住所・生年月日を書いたメモ 証人をご自分で用意する場合 証人の住民票までは必要ありません

事案によっては、これ以外の資料を求められることもあります。書類の有効期限があるのは印鑑登録証明書だけなので、ほかの書類は早めに集めておいて差し支えありません。

準備するメモの書き方

メモに決まった様式はありません。手書きでも構いませんし、メールやファックス、郵送で提出できます。書く内容は次の3つです。

  • どんな財産があるか:不動産は所在と地番・家屋番号まで書きます。預貯金は、口座を指定して残したい場合は金融機関名と支店名まで、まとめて残す場合は「預貯金すべて」で構いません。
  • 誰に残すか:氏名と生年月日、遺言者から見た続柄を書きます。
  • どの財産を、誰に、どれだけ残すか:「自宅は妻に、預貯金は長男と長女に半分ずつ」といった程度で構いません。

1円単位まで決める必要はありません。方針が伝われば、公証人が法律的に成り立つ文面に整えてくれます。

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不動産は、登記事項証明書に記載されているとおりに拾ってください。自宅の土地・建物とは別に、前面道路の持分や、隣接する別の筆の土地を持っていることがあります。これがメモから漏れると遺言にも書かれず、その部分だけ相続人全員で分け方を決めることになります。手元に権利証や登記識別情報しかない場合は、記載されている不動産を一つずつ確認してください。

証人は誰に頼めばよい?

財産を受け取る立場のご家族には頼めません。相続人でも受遺者でもない方に依頼するか、適当な方が見つからなければ公証役場に紹介してもらいます。

公正証書遺言には証人2人以上の立会いが必要です民法第969条第1項。証人は、遺言者ご本人の意思で遺言がされたことと、手続きが正しく行われたことを見届ける役割を担います。この役割の性質上、遺言の内容によって利益を受ける立場の方は証人になれません

証人になれない人

次の方は証人になれないと法律で決められています民法第974条

  • 未成年者
  • 推定相続人(今相続が起きれば相続人になる方)と、遺贈を受ける方
  • 推定相続人・受遺者の配偶者と直系血族(親・子・孫など)
  • 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人

配偶者やお子さんは推定相続人にあたるため、証人になれません。お子さんの配偶者も、推定相続人の配偶者として除かれます。

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ご親族に頼む場合は、その方が推定相続人にあたらないかを先に確かめてください。お子さんがいない方の場合、ご兄弟姉妹や甥・姪が推定相続人になることがあります。誰が推定相続人になるかはご家族の状況で変わり、証人になれない方に頼んでしまうと、遺言の効力が問題になります。

証人を頼める人と、見つからないときの選択肢

証人になれるのは、相続人でも受遺者でもない方です。選択肢は次の3つです。

  • 相続人にあたらない友人・知人:頼みやすい反面、遺言の内容を知られることになります。
  • 依頼している専門家:司法書士などに遺言の作成を依頼している場合、その専門家が証人を引き受けられます。守秘義務があるため、内容が外に伝わる心配がありません。当事務所でも証人をお引き受けしています。
  • 公証役場で紹介してもらう:適当な方が見つからない場合、公証役場に証人を紹介してもらえます。「2人を自分で用意しなければ作れない」わけではありません。

ご家族に頼めない以上、誰に内容を知られるかという問題は避けて通れません。内容を知られたくない場合は、守秘義務のある専門家に依頼するか、公証役場に紹介を依頼する方法を検討してください。

亡くなった後の手続き

公正証書遺言は検認が不要なため、相続が始まったらすぐに名義変更などの手続きへ進めます民法第1004条第2項

手続きに使うのは、作成したときに交付された正本または謄本です。あらためて公証役場へ取りに行く必要はありません。手元に見当たらない場合に限り、公証役場で謄本の交付を受けます。

遺言があるかどうかは公証役場で調べられる

亡くなった方が公正証書遺言を残していたかどうかは、公証役場で確認できます。1989年(平成元年)以降に作成された遺言公正証書であれば、遺言者が亡くなった後、相続人などの利害関係人が、全国どこの公証役場からでも公正証書遺言をしていたかどうかを問い合わせられます。

自宅を探しても遺言書が見つからない場合や、生前に「遺言を書いた」と聞いていたものの所在が分からない場合は、この照会を使ってください。

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原本は長期間保管されます。公証人法施行規則は公正証書の保存期間を20年と定めていますが、遺言公正証書は保存を要する特別の事由にあたるものとして、遺言者の死亡後50年、作成から140年、または遺言者の生後170年という長期の取扱いがされています。作成から何十年経っていても、原本が失われている心配はほとんどありません。

遺言執行者がいると手続きを進めやすい

遺言執行者とは、遺言の内容を実際に実行する人のことです。遺言書の中で指定しておけます民法第1006条第1項。未成年者と破産者以外であれば指定でき民法第1009条、財産を受け取る相続人ご本人を指定することもできます。

遺言執行者が指定されていると、預貯金の解約や不動産の名義変更を、その人が中心になって進められます。指定がなくても遺言の内容は実現できますが、手続きのたびに相続人が動く必要が出てきます。ご家族の負担を減らしたい場合は、作成の段階で誰を指定するか決めておいてください。

内容が確認できたら、不動産は相続登記、預貯金は金融機関での手続きへ進みます。遺言書に書かれていない財産が残っている場合は、その部分について相続人全員で分け方を決めることになります。

公正証書遺言でも無効になることはある?

方式の不備で無効になることはほとんどありませんが、遺言をした時点の判断能力を理由に争われることはあります。また、無効にならなくても、内容によっては金銭の請求を受けたり、一部が効力を生じなかったりします。

判断能力を理由に争われるケース

遺言をするには、その内容と結果を理解できるだけの判断能力が必要です。15歳以上であれば遺言ができますが民法第961条、年齢の条件を満たしていれば足りるわけではありません。

公正証書遺言では、公証人が遺言者と直接やりとりして本人の意思であることを確認します。それでも、亡くなった後に「作成した時点で判断能力がなかった」と主張されることはあります。争いになった場合は、当時の診断や介護の記録、作成時の状況などをもとに個別に判断されます。

認知症の診断を受けているという理由だけで、遺言ができなくなるわけではありません。判断能力が失われた状態にあるとして成年後見が開始している方でも、判断能力を一時回復したときに医師2人以上の立会いがあれば遺言ができます民法第973条

ただし、判断能力に不安が出てきてからの作成は、後から争われる材料が増えます。気になり始めた時点で動くほうが、結果として確実です。

遺留分との関係

遺留分を侵害する内容にしても、遺言そのものは無効になりません。侵害された相続人が、金銭の支払いを請求できるようになるだけです民法第1046条

遺留分があるのは兄弟姉妹以外の相続人で、割合は、直系尊属だけが相続人の場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1です民法第1042条

兄弟姉妹には遺留分がありません。お子さんがいないご夫婦で、ご主人のご両親がすでに亡くなっていれば、相続人は配偶者と兄弟姉妹になります。この場合、「妻にすべての財産を相続させる」という遺言があれば、そのとおりに実現できます。ただし、ご両親のどちらかが存命であれば親が相続人となり、遺留分の対象になります。

財産を受け取る方が先に亡くなった場合

「長男に自宅を相続させる」と書いた遺言で、その長男が遺言者より先に亡くなった場合、特段の事情がない限り、その部分は効力を生じません。長男のお子さん(孫)が代わりに受け取れるわけではありません。

その財産については、あらためて相続人全員で分け方を決めることになります。備えるには、遺言の中に「長男が先に死亡していたときは、長男の子である○○に相続させる」といった予備の定めを置いておきます。公正証書遺言なら、公証人がこうした条項も含めて文面を整えてくれます。

後から撤回・変更したい場合

遺言はいつでも撤回・変更できます民法第1022条。一度作ったら変えられない、ということはありません。

前に作った遺言と後に作った遺言の内容が食い違う場合、食い違う部分は後の遺言で撤回したものとみなされます民法第1023条第1項。公正証書遺言を自筆証書遺言で撤回・変更することもできます。

また、遺言に書いた財産を生前に売却した場合、その部分は遺言を撤回したものとみなされます民法第1023条第2項。遺言を作った後も、財産はこれまでどおり自由に使えます。

ただし、公正証書遺言を作り直すたびに公証人手数料がかかります。大きな財産を処分したときや、ご家族の状況が変わったときに見直すくらいの頻度で考えておいてください。

よくある質問

公正証書遺言にすれば、相続人の間でもめませんか?
方式の不備による無効や、遺言書の紛失・改ざんは防げますが、もめごとのすべてを防げるわけではありません。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限の取り分があり、これを下回る内容にすると、後から金銭の支払いを請求されることがあります。また、亡くなった後に「作成した時点で判断能力がなかった」と主張されることもあります。もめる可能性が心配な場合は、方式を選ぶことよりも、誰にどれだけ残すかという内容そのものを検討してください。
公正証書遺言を作るまでに、どのくらいの期間がかかりますか?
資料がそろっていれば、相談から作成まで2週間から1か月程度が目安です。戸籍を取り寄せる範囲が広い場合や、不動産の資料集めに時間がかかる場合はもう少し要します。作成当日にかかる時間は30分程度です。事前に公証人とやりとりして文面を確定させておくため、当日に内容を検討することはありません。
体調が悪く公証役場に行けません。それでも作れますか?
作れます。公証人にご自宅や病院、施設まで出張してもらう方法があります。この場合、公証人手数料が50%加算されるほか、日当(1日2万円、4時間以内は1万円)と交通費が必要です。また、手が不自由で字が書けない状態であっても、公正証書遺言なら作成できます。遺言者が署名できない場合は、公証人がその理由を書き添えて署名に代えることが認められています。
遺言の内容を家族に知られずに作ることはできますか?
できます。配偶者やお子さんなど財産を受け取る立場の方は証人になれないため、ご家族が作成の場に立ち会うことはありません。ただし、証人2人には内容が伝わります。内容を知られたくない場合は、守秘義務のある司法書士などの専門家に証人を依頼するか、公証役場に証人を紹介してもらう方法があります。
遺言を作った後に財産が変わったら、作り直しが必要ですか?
必ずしも必要ありません。遺言に書いた財産を生前に売却した場合、その部分は遺言を撤回したものとみなされるため、遺言全体が無効になることはありません。ただし、売却した財産について書いた部分が効力を失うので、残りの財産の分け方が当初の意図とずれることがあります。大きな財産を処分したときや、ご家族の状況が変わったときは、見直しを検討してください。遺言はいつでも撤回・変更でき、公正証書遺言を自筆証書遺言で変更することもできます。

まとめ|公正証書遺言を確実に進めるために

公正証書遺言は、公証人が文面を作り、原本を公証役場が保管する遺言書です。方式の不備で無効になる心配がほとんどなく、紛失や改ざんも避けられます。亡くなった後に家庭裁判所の検認が要らないため、ご家族はすぐに手続きへ進めます。

費用は政令で決まっており、財産を受け取る人ごとに計算して合算します。受け取る人が増えるほど手数料も上がるため、分け方を考える段階でおおよその見当をつけておくとよいでしょう。正確な金額は、遺言の案がまとまった段階で公証人にご確認ください。

証人2人は、財産を受け取る立場のご家族には頼めません。相続人にあたらない方に依頼するか、専門家か公証役場に手配してもらいます。証人が見つからないことを理由に諦める必要はありません。

最後に、作る時期についてです。公正証書遺言でも、判断能力を理由に争われる可能性までは消せません。迷っている段階で動いておくほうが、結果として確実です。

公正証書遺言の作成をお考えの方へ

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遠方の方・外出が難しい方はオンラインでのご相談も可能です

相続のお問い合わせは司法書士事務所神戸リーガルパートナーズまで TEL: 078-262-1691
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