会社を後継者に引き継ぐときは、経営の交代とあわせて、自社の株式の引き継ぎも考えなければなりません。社長を交代しても、株式は自動的には後継者に移りません。株式を誰に、いつ、どうやって渡すかは、経営者が自分で決めて準備する必要があります。
株式の渡し方には、贈与・売買・遺言などがあり、それぞれ株式が移る時期や、必要な資金、ほかの家族への影響が違います。どの方法を選ぶにしても、まず「今、誰が何株持っているか」を確かめることから始まります。
この記事では、社長の交代と株式の引き継ぎの違い、株主の確認の仕方、贈与・売買・遺言の違い、相談の前に整理しておきたいことを、経営者と後継者の方に向けて説明します。事業承継の全体像は「事業承継」で説明しています。
自社株式の承継と、社長の交代を分けて考える
会社を引き継ぐというとき、「社長を交代すること」と「株式を引き継ぐこと」は、別の手続きです。社長を交代しても、株式は前の社長のもとに残ります。反対に、株式を渡しても、自動的に社長が交代するわけではありません。
株式を持つ人と、会社を経営する人は別
株式会社では、会社の持ち主にあたるのが株主、会社を経営するのが取締役や代表取締役です。取締役は株主総会で選ばれます(会社法329条)。その決議は、原則として議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成で行います(会社法341条)。定款で別の割合を決めている会社もありますが、議決権の過半数を持っていれば、原則として取締役の選任を自分の意思で決められます。
| 立場 | 何を持つ・何をするか | 引き継ぐ方法 |
|---|---|---|
| 株主 | 株式を持ち、株主総会で議決権を使う | 株式の贈与・売買・相続 |
| 取締役・代表取締役 | 会社を経営する | 株主総会などで選ばれ、登記する |
| 会社 | 会社の財産(預金・不動産など)を持つ | 会社の財産は会社のもの。株主が変わっても会社の財産は会社に残る |
後継者が社長になっても、議決権の大半を前の社長やほかの家族が持っていれば、後継者は株主総会で自分の考えを通せません。会社を安定して引き継ぐには、経営の交代と株式の引き継ぎを、一緒に計画します。
株式を渡しても、会社の財産は個人のものにならない
会社の預金や会社名義の不動産は、会社の財産です。株式を後継者に渡しても、会社の財産が後継者個人のものになるわけではありません。逆に、経営者個人の名義になっている不動産(会社が使っている土地など)は、株式とは別に、誰が引き継ぐかを決めます。
この記事では、上場していない株式会社の株式を、経営者が生きているうちに後継者へ渡す準備を説明しています。合同会社などは仕組みが違うため、この記事の説明がそのまま当てはまらないことがあります。
まず誰が何株持っているかを確認する
株式の渡し方を考える前に、今、誰が何株持っているかを確かめます。経営者が大半を持っているつもりでも、昔の設立時に親族や知人の名前を借りていたり、ほかの家族が相続で受け継いでいたりして、思っていた株主構成と違うことがあります。
確認する資料
| 資料 | 分かること |
|---|---|
| 株主名簿 | 株主の氏名・住所、持っている株式の数、取得した日(会社法121条) |
| 定款 | 株式を渡すときに会社の承認が必要か(譲渡制限)、株券を発行する会社か、相続人に株式の売渡しを求める定めがあるか |
| 法人税の申告書(株主の明細) | 申告のときに記載した株主と持ち株数。株主名簿と食い違いがないかの確認に使う |
| 株式を取得・贈与したときの資料 | 過去に誰からどう株式を取得したか |
| 遺言 | 経営者がすでに株式の行き先を決めているか |
なお、会社の登記事項証明書には、役員は載っていますが、株主は載っていません。株主は、株主名簿などの会社の資料で確かめます。
株主名簿と実際が違う場合は、先に整理する
株式を譲り受けたことを会社に主張するには、原則として株主名簿の書き換えが必要です(会社法130条)。定款で株券を発行すると定めていない会社では、会社以外の人に対しても同じです。株主名簿が作られていない、記載が古いままになっている、名前だけ借りた株主(名義株)がいる、といった場合は、株式を渡す前に、誰が本当の株主かを整理する必要があります。
また、株券を発行する会社かどうかは、定款のほか、登記事項証明書でも確認できます(株券を発行する会社はその旨が登記されます。会社法911条3項10号)。株券を発行する会社では、株式を渡すときに株券の交付が必要になるため、株券がどこにあるかも確認します。こうした整理は、会社と家族の状況によって進め方が変わるので、早めに専門家に相談してください。
誰に株式を渡すか、ほかの家族への配慮も考える
株式を誰に渡すかを考えるときは、「会社を経営する人」「株式を受け取る人」「そのほかの相続人」を分けて整理します。経営を任せる人と、株式を受け取る人が同じとは限らないためです。
後継者の候補によって、準備することが変わる
| 後継者の候補 | 主に確認すること |
|---|---|
| 子などの親族 | ほかの子との公平(遺留分)、相続のときの株式の扱い |
| 役員・従業員 | 株式を買い取る資金をどう用意するか、経営者の家族が持つ株式をどうするか |
| 社外の第三者 | 会社の売却(M&A)になるため、この記事とは別の検討が必要 |
何もしないと、株式が相続人の間で分かれてしまう
遺言も生前の準備もないまま経営者が亡くなると、株式は相続人全員の共有になります。共有の株式で議決権を使うには、相続人の間で権利を使う人を1人決めて、会社に知らせる必要があります(会社法106条)。遺産分割で誰が株式を受け取るかが決まるまで、株主総会での判断が進めにくくなることがあります。
後継者に株式を集めたいなら、生前の贈与や売買、遺言などで、株式の行き先を決めておく必要があります。
ほかの家族の遺留分も考える
株式を後継者に集めると、ほかの子などの遺留分(法律で保障された最低限の取り分)と食い違うことがあります。経営者が亡くなった後、ほかの家族から、遺留分に相当するお金の支払いを求められると、後継者の負担になります。家族で話し合って合意していても、それだけでは遺留分はなくなりません。
株式を贈与した場合の遺留分の扱いと、経営承継円滑化法の特例(除外合意・固定合意)は「事業承継の遺留分対策|自社株の除外合意・固定合意の違いと手続き」で説明しています。
贈与・売買・遺言の違いと確認すること
株式を後継者に渡す主な方法は、贈与・売買・遺言の3つです。どれが向いているかは、後継者の資金、ほかの家族の事情、株式を渡したい時期によって変わります。どの方法にも共通して、税金の確認が必要です。
✏️株式の渡し方の比較
| 贈与 | 売買 | 遺言 | |
|---|---|---|---|
| 株式が移る時期 | 経営者が生きているうちに、贈与したとき | 経営者が生きているうちに、売ったとき | 経営者が亡くなったとき |
| 後継者の資金 | 代金はいらない | 買い取る資金が必要 | 代金はいらない |
| ほかの家族への影響 | 遺留分の計算に入ることがある | 適正な価格で買い取れば、原則として遺留分の問題は生じにくい | 遺留分の計算に入る |
| 主な確認事項 | 贈与税、遺留分、会社の承認(譲渡制限がある場合) | 価格の決め方と税金、資金の用意、会社の承認 | 遺言の方式、遺留分、経営者が亡くなるまで株式は経営者が持ち続けること |
会社の承認が必要な場合がある
上場していない会社では、定款で、株式を渡すには会社の承認が必要と定めていることがあります(譲渡制限)。贈与や売買で株式を渡すときは、定款で決めた機関(株主総会や取締役会など)の承認を受けます(会社法136条以下)。そのうえで、株主名簿の書き換えも必要です。
遺言で渡す場合は、定款の「売渡請求」の定めを確認する
相続で株式を受け継ぐときは、譲渡制限があっても会社の承認はいりません。ただし、定款に、相続などで株式を受け継いだ人に対して、会社がその株式を売り渡すよう求められる定めがあることがあります(会社法174条)。この定めがある会社では、遺言で後継者に株式を相続させても、会社から売渡しを求められる可能性があります。遺言で渡すことを考えるなら、定款にこの定めがあるかを先に確認します。
どれか1つに決めなくてもよい
贈与と遺言を組み合わせる、一部を売買にするなど、方法を組み合わせることもできます。どれが一番よいという決まった順番はなく、会社の状況と家族の事情を合わせて考えます。遺言の基本は「遺言書作成は何から始める?」で説明しています。
株式の評価と税金は、方法を決める前に確認する
上場していない会社の株式には市場の値段がないため、贈与・売買・相続のどれでも、税金を計算するときは決められたルールで株式を評価します。会社の利益や資産が増えていると、経営者が思っているより評価額が高くなっていることがあります。株式を受け取る人が経営に関わる親族か、少数の株を持つだけの株主かによって、使う評価の方法も違います。売買では、当事者が決めた代金と、税金を計算するときの評価額が同じになるとは限りません。代金が評価額より低すぎると、差額に贈与税がかかることがあります。
また、要件を満たせば贈与税・相続税の納税が猶予される制度(いわゆる事業承継税制)もありますが、使える条件や手続の期限が細かく決まっています。この制度は納税をいったん先に延ばすもので、後継者が亡くなった場合など一定の事由が生じ、所定の手続をしたときに、猶予された税金が免除されます。途中で要件を満たさなくなると、猶予されていた税金を納めることになります。
株式の評価額や税金の額、どの制度が使えるかは税理士が判断する分野です。贈与・売買・遺言のどれにするかを決める前に、評価額と税金の見込みを確認しておきます。当事務所では、税理士とチームを組んで、株式の評価や税金の確認と、登記・遺言などの手続を一緒に進めています。
相談の前に整理しておきたいこと
自社株式の承継を相談するとき、最初から全部の資料がそろっている必要はありません。わかっていることと、まだわからないことを分けておくだけでも、確認の順番を決めやすくなります。下の表を、手元のメモとして使ってください。
✏️相談前の整理メモ
| 確認すること | 資料の例 | 現状・未確認のメモ |
|---|---|---|
| 今、誰が何株持っているか | 株主名簿、法人税申告書の株主の明細 | (例:名簿と申告書が合っているか未確認) |
| 定款の定め(譲渡制限・売渡請求・株券の発行) | 定款(最新のもの) | (例:定款が見当たらない) |
| 後継者の候補 | ― | (例:長男を考えているが、本人の意思は未確認) |
| ほかの家族の状況 | 家族関係のメモ | (例:会社に関わっていない子が2人いる) |
| 株式を渡したい時期 | ― | (例:5年以内に社長を交代したい) |
| これまでの株式の移動 | 贈与契約書、売買契約書、過去の申告書 | (例:以前に一部を贈与したが書類がない) |
| 経営者の遺言 | 遺言書 | (例:まだ作っていない) |
| 会社が使っている経営者個人の財産 | 不動産の登記事項証明書、固定資産税の通知書 | (例:工場の土地は社長個人の名義) |
会社が経営者個人の土地や建物を使っている場合、その不動産を会社や後継者に移すかどうかは、株式とは別に考えます。必ず会社名義に変えなければならないわけではありません。誰が引き継ぐかによって、ほかの家族との分け方にも関わるため、株式とあわせて整理しておきます。
よくある質問
- 後継者がまだ決まっていなくても、準備できることはありますか?
- あります。今、誰が何株持っているか、定款にどのような定めがあるか、これまでに株式を移したときの書類が残っているかは、後継者が決まる前でも確認できます。株主名簿が整っていない、名義だけの株主がいるといった問題は、解決に時間がかかることがあるため、早めに確かめておくと、後継者が決まったときに方法を選びやすくなります。
- 準備をする前に経営者が亡くなった場合、株式はどうなりますか?
- 遺言がなければ、株式は相続人全員のものになり、遺産分割で誰が受け継ぐかを決めるまで、相続人が共有している状態になります。その間に株主として議決権を使うには、相続人の中から権利を使う人を1人決めて、会社に通知します(会社法106条)。遺言がある場合は、その内容に従います。どちらの場合も、定款に相続した人への売渡請求の定めがあるかを確認しておきます。
自社株式の引き継ぎは、株主の確認から始めましょう
「株主名簿が整っているか分からない」「どの方法で株式を渡すか決めかねている」など、方法を決める前に、会社と家族の状況を整理することが大切です。当事務所では、株主構成や定款の確認、家族関係の整理から、遺言の作成、後継者の役員就任の登記まで、状況に合わせてお手伝いします。株式の評価や税金、家族との合意の内容は、税理士・弁護士とチームを組んで対応します。上の整理メモに書けるところだけ書いて、お持ちください。
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