親がまだ元気なうちに、家族信託という言葉を耳にして調べ始めることがあります。いざ調べてみると、銀行や専門家のサイトごとに書かれている内容が異なり、結局何から始めればよいのか、どこで、誰に相談すればよいのかがわかりにくいと感じることも少なくありません。
家族信託は、役所などで一度に手続きが完了するものではなく、家族で目的や役割を話し合い、契約を結んだあとに財産ごとの手続きを進めていく仕組みです。このページでは、手続き全体の流れと、始める前に家族で確認しておきたいことを順番に解説します。
⚠️注意
家族信託は、本人(委託者)が契約の内容を理解し、意思を示せる段階でなければ新たに設定することはできません。認知症と診断された場合は、その時点での理解・意思表示の状態を専門家が個別に確認したうえで判断します。理解が難しい状態になったあとに、新たに家族信託を設定することはできません。
この記事は、判断能力があるうちに備える家族信託の手続きを扱います。すでに相続が始まっていて、相続人の中に認知症の方がいる場合は、相続人が認知症のときの遺産分割の進め方をご覧ください。
家族信託が自分の家庭に合っているか迷う場合は、家族信託・成年後見・任意後見・遺言の違いで制度の選び方を確認できます。
結論|家族信託はどこで手続きする?
家族信託の手続きは、一つの窓口で一括して完了するものではなく、進める内容によって関わる場所や相手が変わります。大きく分けると、①信託の内容を決める「設計」、②契約を交わす「契約・公正証書」、③財産ごとに進める「登記・金融機関の手続き」の3段階があり、それぞれ相談先が異なります。
内容を決める「設計」
最初に行うのは、誰の財産を、何のために、誰に託すのかという信託の内容を決める設計です。目的や家族の事情によって決めるべき内容が変わるため、司法書士など家族信託の実務に詳しい専門家に相談しながら進めます。
契約を交わす「契約・公正証書」
設計した内容をもとに、委託者と受託者の間で信託契約を結びます。契約書は公証役場で公正証書として作成する方法があり、これは契約内容を公的に証明し、後日の内容や成立時期をめぐる食い違いを防ぐ効果があります。方式は事案によって異なるため、専門家に相談したうえで判断します。
財産ごとに進める「登記・金融機関の手続き」
契約が整ったら、対象財産ごとに実行の手続きに移ります。不動産であれば信託登記(不動産の名義を信託財産として登記すること)を法務局に申請し、預貯金であれば信託専用の口座を金融機関で開設するなど、財産の種類によって手続き先が異なります。「契約すれば手続きは終わり」ではなく、契約後に財産ごとの実行手続きが続く点が、家族信託が単純な単独手続きと違うところです。
始める前に家族で確認する3つのこと
契約書の作成に入る前に、家族で①目的、②対象財産、③担い手(委託者・受託者・受益者)の3つを話し合っておく必要があります。この3つが曖昧なまま専門家に相談すると、打ち合わせの回数が増えたり、内容の手戻りが生じたりすることがあります。
何のために信託を使うのか(目的)
整理しておきたいのは、何のために家族信託を使うのかという目的です。認知症などで判断能力が低下した場合に備えて不動産や預貯金の管理を続けられるようにしたいのか、特定の家族に財産を承継させたいのかなど、目的によって信託の内容は大きく変わります。目的が曖昧なままだと、契約内容の設計が定まりません。
どの財産を対象にするのか
信託の対象とする財産も決めておく必要があります。自宅や収益不動産、預貯金、有価証券など、対象にする財産によって必要な手続きが変わります。財産のすべてを信託する必要はなく、管理を任せたい財産だけを選ぶこともできます。
誰が担うのか(委託者・受託者・受益者)
家族信託を構成する3つの役割も決めます。財産を託す本人を委託者、託された財産を管理・運用する人を受託者、その財産から利益を受ける人を受益者と呼びます。認知症などに備えて自分の財産管理を任せる場合は、委託者本人が当面の受益者を兼ねる設計にしたうえで、契約で定めれば、委託者の死亡後に子など次の受益者へ引き継ぐ設計にすることもできます(設計例の一つです)。受託者を誰が担うかとあわせて、家族の状況によって慎重に検討する必要があります。
家族信託の手続き|5つのステップ
家族信託の手続きは、目的の整理から財産の管理開始まで、大きく5つの段階で進みます。ここまで説明した「設計」「契約」「登記・金融機関の手続き」を、実際に動く順番に沿って並べたものです。
✏️家族信託の手続き5ステップ
目的を整理する
何のために家族信託を使うのかを家族で話し合います。
家族・財産を確認する
対象財産と、委託者・受託者・受益者になる人を確認します。
内容を設計する
専門家に相談しながら、信託の内容を具体的に決めます。
契約書等を作成する
信託契約を結びます。公正証書として作成する方法もあります。
登記・口座開設・管理を始める
不動産の信託登記や信託専用口座の開設など、財産ごとの手続きを進めます。