亡くなった親の家を相続することになったのに、権利証が見つからない。そんなときでも、通常の相続登記(相続による名義変更)では、亡くなった親の権利証は原則いりません。権利証がないことを理由に、手続きを止める必要はありません。
ただし、権利証は「親がどの不動産を持っていたか」を知る手がかりでもあります。権利証がない場合は、まず対象の不動産を確かめることから始めます。また、登記されている親の住所が古いままで、最後の住所とつながらない場合などには、権利証が役に立つこともあります。
この記事では、権利証・登記識別情報・登記事項証明書の違い、親名義の不動産の探し方、相続登記でそろえる書類、権利証が必要になる場面を説明します。
相続登記に権利証は必要?
通常の相続登記では、亡くなった親の権利証は原則いりません。権利証が見つからなくても、相続登記の準備は進められます。
通常の相続登記では、亡くなった親の権利証は原則いらない
権利証(または登記識別情報)を出す必要があるのは、売買や贈与のように、名義を渡す人と受け取る人が一緒に登記を申請する場合です(不動産登記法22条)。売り主が本当に持ち主であることを確かめるために提出します。
相続の場合、名義人である親はすでに亡くなっているため、相続した人が一人で登記を申請します(不動産登記法63条2項)。親が持ち主だったことは登記の記録から分かり、誰が相続したかは戸籍や遺産分割協議書などで証明します。そのため、親の権利証を出す必要がないのです。
権利証をなくしても、家の所有権はなくならない
権利証は、登記が済んだときに法務局から交付される書類です。登記の記録を見れば、登記上の名義人が誰かを確認できます。権利証は登記が済んだことを示す書類で、所有権そのものではありません。権利証が見つからないからといって、親の家の所有権がなくなったり、相続できなくなったりすることはありません。
権利証は再発行できない
権利証や登記識別情報は、なくしても再発行されません。ただ、不動産を取得した人が申請人となって相続登記をすると、その人に新しい登記識別情報が通知されます。将来その不動産を売るときは、この新しい登記識別情報を使うので、親の権利証が見つからないままでも困ることはありません。
権利証・登記識別情報・登記事項証明書の違い
「権利証」と呼ばれる書類には、古い形の登記済証と、新しい形の登記識別情報通知の2種類があります。名義を確認するための登記事項証明書とは役割が違うので、混同しないようにします。
✏️3つの書類の違い
| 書類 | どんなものか | 誰が持つか |
|---|---|---|
| 登記済証(昔の権利証) | 登記が済んだ書類に「登記済」の印が押されたもの。法務局がオンライン化される前の登記で交付された | 登記した本人だけ |
| 登記識別情報通知(今の権利証) | 英数字12桁の符号が記載された書類。符号は目隠しシールなどで隠されている。2005年以降、法務局ごとに順次切り替わった | 登記した本人だけ |
| 登記事項証明書 | 不動産の所在・地番・持ち主などが記載された証明書。法務局で取得する | 誰でも取得できる |
親が不動産を取得した時期によって、手元にあるのが登記済証か登記識別情報通知かが変わります。どちらも「権利証」と呼ばれ、本人であることを確かめるために使う、本人しか持たない書類です。
一方、登記事項証明書は、手数料を払えば誰でも取得できる書類です。登記事項証明書を取っても、権利証の再発行にはなりません。ただし、親の名義になっているか、どの不動産かを確かめるために、相続登記の準備では必ず使います。
登記識別情報の符号は、他人に知られると悪用されるおそれがあります。目隠しシールははがさず、コピーや写真を人に渡さないようにしてください。
権利証がないときは、親名義の不動産を探すことから
相続登記に権利証はいりませんが、権利証がないと困ることが1つあります。親がどの不動産を持っていたかを、別の方法で確かめる必要があることです。
権利証は、親がどの不動産を持っていたかの手がかりでもある
権利証には、その不動産の所在や地番が書かれています。権利証が手元にあれば、それを見て対象の不動産を確かめられます。権利証が見つからない場合、自宅の土地と建物は分かっていても、自宅前の私道の持分や、別の場所にある土地などが抜け落ちるおそれがあります。相続登記から漏れた不動産は、後で見つかったときに改めて手続きが必要になります。
手がかりになる書類
権利証がない場合は、次の書類や制度を組み合わせて、親名義の不動産を確かめます。
| 手がかり | 分かること | 注意点 |
|---|---|---|
| 固定資産税の納税通知書 | その年に課税された不動産 | 課税されない私道や、税額が少なく通知が来ない不動産は載らないことがある |
| 名寄帳 | その市区町村にある親名義の不動産(課税・非課税を含む) | 市区町村ごとに取得する。ほかの市区町村の不動産は分からない |
| 所有不動産記録証明制度 | 全国の、親が名義人になっている不動産の一覧 | 2026年2月から利用できる。登記上の住所や氏名が古いままの不動産などは漏れることがある |
どれか1つで完全に分かるわけではないため、複数を組み合わせて確かめます。親の通帳に固定資産税の引き落としがあれば、その市区町村に不動産があるという手がかりにもなります。
登記事項証明書で名義と地番を確かめる
対象の不動産が分かったら、法務局で登記事項証明書を取り、名義が親になっているか、所在と地番はどうなっているかを確かめます。
注意したいのは、住居表示が実施されている地域では、普段使っている住所(住居表示)と、登記の地番は違うことです。この場合、「○○町1丁目2番3号」という住所では登記事項証明書は取れないため、固定資産税の通知書や名寄帳に書かれた地番・家屋番号を使います。また、名義が親ではなく祖父母のままになっていることもあり、その場合は相続登記の進め方が変わります。
相続登記でそろえる書類
相続登記では、親の権利証の代わりに、誰が相続したかを証明する書類をそろえます。権利証がいらないからといって、ほかの書類まで省けるわけではありません。
主な書類は次のとおりです。遺言があるか、遺産分割協議をしたかによって、必要な書類が変わります。
- 亡くなった親の戸籍謄本(相続人を確かめるため)
- 亡くなった親の住民票の除票または戸籍の附票(登記の名義人と同じ人であることを確かめるため)
- 相続人の戸籍謄本
- 不動産を取得する人の住民票
- 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議で決めた場合)
- 遺言書(遺言で取得する場合)
- 固定資産税評価証明書(登録免許税を計算するため)
このうち、住民票の除票や戸籍の附票は、登記に記録された親の住所と、亡くなったときの住所が同じ人のものであることを示す書類です。権利証が関わってくるのは、この住所のつながりが書類で示せない場合です。この後の「権利証が必要になる場合はある?」で説明します。
ケースごとの必要書類の一覧は「相続登記は何から始める?手続きの流れと必要書類をわかりやすく解説」で説明しています。
権利証が必要になる場合はある?
あります。通常の相続登記では原則いりませんが、登記された親の住所と最後の住所がつながらないときや、相続人以外の人に遺贈するときなどは、権利証が必要になったり、役に立ったりします。
登記されている住所と最後の住所がつながらないとき
登記の記録には、親が不動産を取得したときの住所が記録されています。その後に引っ越しても、住所の変更登記をしていなければ、登記の住所は古いままです。相続登記では、住民票の除票や戸籍の附票で、登記の住所から最後の住所までのつながりを示します。
ところが、何度も引っ越していたり、古い住所の記録が役所で廃棄されていたりすると、書類で住所をつなげられないことがあります。この場合、登記の名義人と亡くなった親が同じ人であることを、別の方法で示す必要があります。
- 権利証がある場合:親の権利証を提出します。権利証を持っていたことが、同じ人であることの裏付けになります
- 権利証がない場合:当事務所の実務では、相続人が事情を説明する上申書を提出して対応することが多くなっています
なお、住民票の除票や戸籍の附票の保存期間は、2019年6月から150年に延びました。それより前に廃棄された記録は取れませんが、比較的最近の引っ越しの記録であれば、取得できることが多くなっています。
遺言で、相続人以外の人に遺贈するとき
遺言で財産を受け取る人によって、権利証の要否が変わります。
| 遺言で受け取る人 | 登記の申請 | 親の権利証 |
|---|---|---|
| 相続人(子など) | 受け取る人が一人で申請できる(不動産登記法63条3項) | いらない |
| 相続人以外(知人・団体など) | 受け取る人と、遺言執行者または相続人全員が一緒に申請する | 必要(ない場合は別の本人確認の手続き) |
相続人以外の人への遺贈は、売買と同じように、名義を渡す側と受け取る側が一緒に申請する登記です。そのため、亡くなった親の権利証を提出する必要があり、見つからない場合は、司法書士が作成する本人確認情報など、別の手続きが必要になります。
将来、実家を売るとき
不動産を取得した人が申請人となって相続登記をすると、その人に新しい登記識別情報が通知されます。将来その家を売るときは、この新しい登記識別情報を使います。親の権利証が見つからないままでも、相続登記を済ませておけば、売却のときに困ることはありません。
相続登記が終わったら、新しい登記識別情報を保管する
相続登記が完了すると、申請人として名義人になった人に、法務局から新しい登記識別情報通知が交付されます。これが、相続した人にとっての新しい権利証です。
法定相続分どおりに相続人全員の共有で登記する場合、相続人の一人が全員分をまとめて申請することもできます。この場合、申請しなかった相続人には登記識別情報が通知されません。将来の売却などに備えるなら、名義人になる人それぞれが申請人になる方法を検討します。
受け取ったら、他人に見せずに保管する
登記識別情報通知は、将来その不動産を売ったり、担保に入れたりするときに使います。なくしても再発行されないため、実印や通帳と同じように大切に保管してください。
- 符号を隠している目隠しシールははがさない
- コピーや写真を撮って人に渡さない
- どの不動産の登記識別情報か分かるように、登記完了証などの書類とまとめておく
司法書士に相続登記を依頼した場合は、司法書士が法務局から受け取り、登記完了の書類と一緒にお渡しします。
古い権利証が後から見つかったら
相続登記を済ませた後に、親の古い権利証が見つかることもあります。その不動産については新しい登記識別情報があるので、古い権利証を使う場面はありません。ただし、古い権利証に、相続登記をしていない別の不動産が書かれていることもあります。すぐに処分せず、相続登記から漏れている不動産がないかを確かめる手がかりにしてください。
権利証が見つからない相続登記の解決事例
当事務所では、権利証が見つからない状態からの相続登記を数多くお手伝いしています。その中から2つの事例をご紹介します。
納税通知書にない不動産が名寄帳で見つかり、すべて相続登記した事例
【状況】実家で親の権利証が見つかりませんでした。固定資産税の納税通知書で、相続する不動産は分かっていました。
【解決のポイント】念のため名寄帳を取って不動産を確かめたところ、納税通知書には載っていない不動産が見つかりました。追加で見つかった不動産も含めて、すべての不動産の相続登記を完了させました。
田舎にあるはずの土地を名寄帳で特定し、相続登記した事例
【状況】親の権利証が見つからず、田舎に土地があるはずだと分かっていても、場所や地番などの詳細が分かりませんでした。
【解決のポイント】土地がある市区町村で名寄帳を取り、対象の不動産を確かめたうえで、相続登記を行いました。
どちらの事例も、権利証がないことは相続登記の妨げになりませんでした。手続きを進めるうえで必要だったのは、名寄帳で相続する不動産を確かめる作業です。
よくある質問
- 権利証は再発行できますか?
- できません。登記済証も登記識別情報も、なくした場合に再発行される仕組みはありません。ただし、通常の相続登記では親の権利証は原則いらず、不動産を取得した人が申請人となって相続登記をすると、その人に新しい登記識別情報が通知されます。
- 親名義の不動産がどれか、どうやって調べればよいですか?
- 固定資産税の納税通知書、市区町村の名寄帳、2026年2月から始まった所有不動産記録証明制度などを組み合わせて調べます。どれか1つで漏れなく分かるとは限らないため、複数を使って確かめます。
- 親の住所がつながる書類がそろいません。相続登記はできますか?
- できます。住民票の除票や戸籍の附票で住所をつなげられない場合、親の権利証があれば提出します。権利証もない場合は、当事務所の実務では、相続人が事情を説明する上申書で対応することが多くなっています。
- 権利証がないと、将来家を売るときに困りませんか?
- 不動産を取得した人が申請人となって相続登記を済ませておけば困りません。その人に新しい登記識別情報が通知され、売却のときはそれを使います。
- 遺言で財産を受け取る場合も、権利証はいりませんか?
- 相続人が遺言で受け取る場合は、いりません。相続人以外の人が遺贈を受ける場合は、親の権利証が必要で、見つからないときは本人確認情報など別の手続きが必要になります。
- 権利証を盗まれたかもしれません。どうすればよいですか?
- 警察に届け出たうえで、早めに専門家に相談してください。権利証だけで名義を変えられるわけではありませんが、実印や印鑑証明書も一緒になくなっている場合は、特に急いで対応する必要があります。
権利証が見つからない相続登記、まずご相談ください
「親名義の不動産がどれか分からない」「住所の書類がそろわない」など、権利証がない相続登記は、確認することが多くなります。ご相談の際は、固定資産税の納税通知書、手元にある登記関係の書類、戸籍などをご用意ください。不動産の確認から必要書類の収集、相続登記の申請まで、状況に合わせてお手伝いします。
遠方の方・外出が難しい方はオンラインでのご相談も可能です
