相続人が行方不明のときの遺産分割|探し方と不在者財産管理人

「弟とは10年以上連絡を取っていない。どこに住んでいるかも分からない」——親が亡くなり、相続人の中に音信不通の人がいると、銀行でも法務局でも「相続人全員の署名と実印を」と言われて、そこで手続きが止まってしまいます。

連絡が取れないからといって、その人を外して遺産分割を進めることはできません。ただし、進める道がないわけでもありません。まず戸籍の附票で住所をたどり、それでも所在が分からない場合に、家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立てる、という流れになります。

このページでは、「連絡が取れない」と「行方不明」の違い、住所の調べ方、不在者財産管理人と失踪宣告の使い分け、申立ての費用と書類を順に説明します。

なお、連絡が取れないというだけで、その方を亡くなったものとして扱うことはできません。

連絡が取れない相続人を外して遺産分割はできる?

できません。連絡が取れないことは、その方を遺産分割から外してよい理由にはなりません。

一人でも欠けた遺産分割は無効

遺産分割は相続人全員で行う必要があり、一人でも欠けたまま行った協議は無効です。「疎遠だから」「連絡がつかないから」という事情があっても変わりません。

そして実務上は、連絡の取れない方を外して協議書を作っても、その先へ進めません。相続人が誰であるかは戸籍で確認されるため、一人分の署名・押印と印鑑証明書が欠けていることは、法務局や金融機関の窓口で分かります。名義変更も預貯金の払戻しも受け付けてもらえません。

「外して進める」という選択肢は、実務上はじめから存在しないとお考えください。所在の分からない相続人がいる場合は、その方を手続きに加える方法を探すことになります。

「連絡が取れない」と「行方不明」は違う

ひとくちに「連絡が取れない」といっても、状態によって進め方は変わります。住所が分からないだけの場合と、法律上の「不在者」にあたる場合は別のものです。

✏️状態別の進め方

相続人の状態 よくある例 進め方
住所が分からない 長年連絡を取っていない 戸籍の附票で住所を調べ、手紙を出す
住所は分かるが返事がない 手紙を出しても応答がない 不在者ではない。話し合いに応じてもらえなければ調停を検討する
海外に住んでいる 移住して連絡が減った 不在者ではない。在外公館での署名証明などを用いて手続きできる
住所をたどっても所在不明 附票の住所にも住んでいない 不在者財産管理人の選任を検討する
生死が7年以上不明 長期間音信不通で生存も確認できない 失踪宣告も選択肢になる
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海外に住んでいる、疎遠になっているというだけでは、法律上の「不在者」にはあたりません。住所が分かっている方について不在者財産管理人の選任を申し立てても、認められないのが通常です。まずはどの状態にあたるのかを確かめてください。

まず戸籍の附票で住所を調べる

住所が分からないというだけであれば、戸籍の附票で現在の住所を確認できることがあります。いきなり家庭裁判所の手続きを考える前に、ここから始めてください。

戸籍と戸籍の附票で現住所をたどる

相続手続きでは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべて集めます。この過程で誰が相続人かが確定し、それぞれの本籍地も分かります。

戸籍の附票は、その戸籍にいる間の住所の移り変わりが記録された書類です。本籍地の市区町村で取得すれば、連絡先を知らない相続人でも、住民票を移していれば現在の住所が分かります。

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戸籍の附票でたどれるのは、住民票を移している場合の住所です。転居しても住民票を移していない方の場合は、附票に記録された住所と実際の居場所が一致しません。

手紙が届かない・返送された場合

附票で判明した住所に手紙を出したあと、どうなったかによって次の進め方が変わります。

  • 手紙は届いたが返事がない:所在は分かっているため、法律上の「不在者」にはあたりません。話し合いに応じてもらえない場合は、家庭裁判所の調停を検討します
  • 宛先不明で返送された:その住所には住んでいない可能性があります。不在者財産管理人の選任を検討する段階です

手紙には、相続が始まったことと何を決める必要があるかを簡潔に書き、返信しやすい形にしておくと連絡が戻ってきやすくなります。

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SNSやインターネットで探す、共通の知人に尋ねるといった方法は、あくまで補助的な手がかりです。得られた情報を家庭裁判所の手続きで使う場合は、公的な資料で裏づけられるかどうかが問われます。また、相手の個人情報を必要以上に集めたり、第三者に伝えたりすることのないようご注意ください。

所在が分からないときは不在者財産管理人を選任する

住所をたどっても所在が分からない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらい、その管理人に遺産分割へ加わってもらいます。

不在者財産管理人とは、従来の住所や居所を去って容易に戻る見込みのない方(不在者)に財産の管理人がいない場合に、家庭裁判所が選任する人です民法第25条。行方の分からない方の財産を管理し、その方の利益を守る役割を担います。

誰が、どこに申し立てる?

申立てができるのは利害関係人と検察官で、申立先は不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。

利害関係人には、不在者の配偶者、相続人にあたる方、債権者などが含まれます。相続手続きで困っているご家族は、この範囲に入ります。

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申立てをするのはご家族などの利害関係人ですが、手続きを専門家に手伝ってもらうことはできます。家庭裁判所に提出する書類の作成を依頼できるのは、司法書士と弁護士に限られます。司法書士は申立書などの書類作成を担い、弁護士は必要に応じて代理人として手続きに関わります。

費用と主な必要書類

✏️不在者財産管理人の選任にかかる費用

項目 金額
収入印紙 800円
連絡用の郵便切手 家庭裁判所による
予納金 必要な場合のみ・事案による

※2026年7月現在(裁判所公式サイトで確認)。このほか戸籍・住民票などの取得費がかかります。

予納金は、不在者の財産だけでは管理にかかる費用(管理人への報酬を含みます)をまかなえない可能性がある場合に、申立人が納めるお金です。数十万円を求められることもあり、費用面で最も読みにくい部分です。不在者にどれだけの財産があるかによって変わるため、申立ての前に財産の内容を整理しておいてください。

主な必要書類は次のとおりです。

  • 申立書
  • 不在者の戸籍謄本、戸籍の附票
  • 財産管理人候補者の住民票または戸籍の附票
  • 不在の事実がわかる資料
  • 不在者の財産に関する資料
  • 申立人が利害関係人であることがわかる資料

選任されればすぐ遺産分割できる?

できません。管理人が選ばれただけでは、遺産分割に加わることはできないと考えてください。

不在者財産管理人の仕事は、あくまで不在者の財産を管理することです。遺産分割は管理の範囲を超える行為(権限外行為)にあたるため、別に家庭裁判所の許可を得る必要があります民法第28条

そして、この許可を得るには、原則として不在者の法定相続分が確保される内容であることが求められます。管理人には不在者の利益を守る立場があるためです。行方が分からないことを理由に取り分をゼロにする、といった内容では許可を得られません。

ただし、不在者が戻ってきたときに他の相続人が法定相続分にあたる金銭を支払う帰来時精算という方法が、事案によっては認められることがあります。不動産を他の相続人が取得したい場合などに検討されます。どのような分け方であれば許可を得られそうかは、財産の内容や相続人の人数によって変わります。

⚠️

不在者財産管理人の仕事は、遺産分割が終わっても続きます。不在者本人が現れる、失踪宣告がされるなどの事情が生じるまで、確保された財産の管理が続くためです。遺産分割のためだけに使って終わりにできる制度ではない点を、申立ての前に踏まえておいてください。

失踪宣告を検討する場合

生死が分からない状態が長く続いている場合は、失踪宣告という手続きもあります。家庭裁判所がその方を亡くなったものとみなす制度です。

ただし、所在が分からないというだけでは使えません。生死が不明であることと、一定の期間が過ぎていることが必要です。

普通失踪(7年)と危難失踪(1年)

失踪宣告には2つの種類があります民法第30条

  • 普通失踪:その生死が7年間明らかでないとき
  • 危難失踪:戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき

申立てができるのは利害関係人で、相続人にあたる方も含まれます。申立先は、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所です。

いつ死亡したものとみなされるか

失踪宣告では、いつ亡くなったものとみなされるかが見落とされがちです。普通失踪では7年の期間が満了した時、危難失踪ではその危難が去った時に、死亡したものとみなされます民法第31条

この「みなされる時期」が、亡くなった方の死亡日より前か後かで、相続人の顔ぶれが変わります。

  • 亡くなった方より前に死亡したとみなされる場合:その方は相続人になりません。お子さんがいれば、そのお子さんが代わりに相続人になることがあります(代襲相続)
  • 亡くなった方より後に死亡したとみなされる場合:その方はいったん相続人になり、その方の相続人へ引き継がれます

いずれの場合も、話し合いに加わる人が減るとは限りません。「失踪宣告をすれば相続人が一人減って手続きが簡単になる」と考えて申し立てると、想定と違う結果になることがあります。

不在者財産管理人との違い

✏️不在者財産管理人と失踪宣告の違い

不在者財産管理人 失踪宣告
使う場面 所在が分からない 生死が7年間分からない(普通失踪)
本人の扱い 生きている前提で財産を管理する 死亡したものとみなす
遺産分割での扱い 管理人が代わって参加(家庭裁判所の許可が必要) みなされる死亡時期により、代襲相続または数次相続になる
費用 収入印紙800円+郵便切手+予納金(必要な場合) 収入印紙800円+郵便切手+官報公告料5,298円
本人が現れたら 管理が終了する 失踪宣告の取消しの手続きが必要になる

※2026年7月現在(裁判所公式サイトで確認)。

⚠️

失踪宣告は、早く手続きを終わらせるための方法ではありません。7年という期間が必要なうえ、申立て後も家庭裁判所の公告を経るため時間がかかります。相続手続きを進めたいだけであれば、先に不在者財産管理人の選任を検討してください。なお、後から本人が現れた場合には失踪宣告の取消しを求めることになり、財産関係の整理が必要になります民法第32条

遺産分割協議書を作る前のチェック

手続きが動き出すと、協議書の作成を急ぎたくなります。ただ、次の点を確かめないまま署名を集めると、あとで作り直しになります。

  • 相続人が全員そろっているか:亡くなった方の出生から死亡までの戸籍で確定します。戸籍をたどった結果、把握していなかった相続人が判明することがあります
  • 所在の分からない相続人に管理人が選ばれているか:不在者財産管理人が選任されていない状態では、協議を成立させられません
  • 管理人が遺産分割に加わる許可を得ているか:選任されただけでは足りず、家庭裁判所の権限外行為の許可が必要です
  • 失踪宣告をした場合、相続人の顔ぶれが変わっていないか:みなされる死亡時期によって、代襲相続や数次相続が生じます
  • ほかに手当てが必要な相続人がいないか:判断能力に不安のある方や未成年のお子さんがいる場合は、別の準備が必要です
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管理人が選任された後も、許可を得る前に協議書へ署名を集めないでください。家庭裁判所の許可は、協議の内容を審査したうえで出されます。先に内容を固めて署名を集めてしまうと、許可が得られない内容だった場合に、あらためて全員から署名をもらい直すことになります。

相談先の選び方|司法書士に相談できること

行方の分からない相続人がいる場合、必要になる作業は戸籍の収集から家庭裁判所への申立てまで幅があります。何を誰に頼めるのかを整理しておくと、迷わずに進められます。

司法書士に相談できること

  • 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集め、相続人を確定する
  • 戸籍の附票を取り寄せ、所在の分からない相続人の住所を調べる
  • 不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立書類を作成する
  • 遺産分割協議書を作成する
  • 遺産分割の内容にもとづく相続登記を申請する

前に触れたとおり、家庭裁判所に提出する書類の作成を依頼できるのは、司法書士と弁護士に限られます。申立人となるのはご家族ですが、必要書類の収集から申立書の作成まで、準備の実務は司法書士がお手伝いします。ご家族だけで一から進める必要はありません。

司法書士以外に確認が必要なこと

✏️確認したいことと相談先

確認したいこと 相談先
相続人の確定、所在の調査、申立書類の作成、相続登記 司法書士
相続税の申告が必要か、税額はいくらか 税理士
相続人の間で主張が対立し、代理人に交渉を任せたい 弁護士

当事務所では、戸籍を集めて相続人を確定し、所在の分からない相続人の住所の調査、遺産の範囲の確認、家庭裁判所へ提出する書類の作成をお引き受けしています。相続人の間で主張が対立している場合は、弁護士へのご相談をご案内します。

よくある質問

連絡が取れない相続人を外して、署名なしで遺産分割を進められますか?
できません。遺産分割は相続人全員で行う必要があり、一人でも欠けたまま行った協議は無効です。また、相続人が誰であるかは戸籍で確認されるため、署名・押印と印鑑証明書が欠けた協議書は、法務局や金融機関の窓口で受け付けてもらえません。
住所も連絡先も分からない相続人がいます。まず何をすればよいですか?
戸籍の附票を取得して現在の住所を確認します。相続手続きでは亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集めるため、その過程で相続人の本籍地が分かります。本籍地の市区町村で戸籍の附票を取れば、住民票を移していれば現在の住所が分かります。
海外に住んでいる相続人も「行方不明」になりますか?
なりません。連絡が取れて所在が分かっていれば、海外にお住まいでも法律上の「不在者」にはあたりません。日本の印鑑証明書がない場合は、在外公館での署名証明などを用いて手続きを進めます。
不在者財産管理人が選ばれれば、すぐに遺産分割できますか?
できません。遺産分割は管理人の権限を超える行為にあたるため、別に家庭裁判所の許可を得る必要があります。許可を得るには、原則として不在者の法定相続分が確保される内容であることが求められます。
行方不明の相続人には何も相続させない内容にできますか?
取り分をゼロにする内容は、原則として認められません。管理人には不在者の利益を守る立場があるためです。ただし、不在者が戻ってきたときに他の相続人が法定相続分にあたる金銭を支払う「帰来時精算」という方法が、事案によっては認められることがあります。どのような内容であれば許可を得られるかは、財産の内容や相続人の状況によって変わります。
失踪宣告をすれば、早く解決しますか?
早く解決するための方法ではありません。普通失踪では生死が7年間分からないことが必要で、申立て後も家庭裁判所の公告を経るため時間がかかります。また、みなされる死亡時期によっては代襲相続や数次相続が生じるため、話し合いに加わる人が減るとは限りません。
将来に備えて、生前にできることはありますか?
遺言を残しておく方法があります。誰に何を引き継がせるかが遺言で決まっていれば、遺産分割協議をせずに手続きを進められる場合があります。

まとめ|まず戸籍の附票で住所を確かめる

相続人と連絡が取れない場合に押さえておきたいのは、次の点です。

  • 連絡が取れないというだけで外すことはできず、実務上も窓口で受け付けてもらえない
  • まず戸籍の附票で住所をたどる。住所が分かれば法律上の「不在者」ではない
  • 所在が分からない場合に不在者財産管理人を検討する。選任だけでは足りず、遺産分割には家庭裁判所の許可が必要
  • 許可には、原則として不在者の法定相続分が確保される内容であることが求められる
  • 失踪宣告は生死不明7年が必要で、代襲相続や数次相続が生じるため人数が減るとは限らない
  • 家庭裁判所に提出する書類の作成を依頼できるのは、司法書士と弁護士

手続きが止まったままだと焦りますが、順番を飛ばすとやり直しになります。まずは戸籍を集めて相続人を確定し、所在を確かめるところから始めてください。

連絡の取れない相続人がいてお困りではありませんか?

「弟と何年も連絡が取れず手続きが止まっている」「戸籍の附票を取っても住んでいなかった」「不在者財産管理人を申し立てるべきか迷っている」——そんなときは、司法書士事務所神戸リーガルパートナーズにご相談ください。協議書を急いで作らず、相続人の確定と所在の調査から整理してお手伝いします。家庭裁判所へ提出する書類の作成もお引き受けします。

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