遺言

遺言書は必要?作成をおすすめする人・必要性が高いケースを解説

「うちには大した財産もないし、家族も仲がいいから遺言書なんて必要ない」。そう考える方もいます。ですが、財産の額や家族の仲のよさとは別に、遺言書があるかないかで相続人の手続きの負担が大きく変わる家庭があります。

遺言書は、すべての方に必ず必要なものではありません。一方で、子どもがいない夫婦、再婚して前の配偶者との間に子どもがいる、不動産を持っているといった事情があると、遺言書を残しておくことで防げるトラブルがあります。

このページでは、遺言書を作っておいた方がよいケースを具体的に挙げ、当てはまるかどうかをご自身で確認できるようにまとめました。遺言書でできること・できないことや、作るならどの方式を選べばよいかも確認できます。

遺言書は全員に必須ではないが、家族の負担を減らせる

遺言書の作成は、法律上の義務ではありません。遺言書がなくても、相続人全員で話し合って財産の分け方を決める遺産分割協議を行えば、相続手続きは進められます。

ただし、遺産分割協議には相続人全員の合意が必要です民法第907条第1項。相続人が2人以上いる家庭では、財産をどう分けるかを全員で決めなければならず、話し合いに時間がかかることがあります。遺言書があれば、この話し合い自体が不要になり、遺言の内容どおりに手続きを進められます。

財産が少ない、家族の仲がよいといった事情は、話し合いがまとまりやすいことの理由にはなっても、相続人が誰になるか・何人になるかとは関係ありません。遺言書が必要かどうかは、財産の額や家族仲ではなく、相続人の顔ぶれと財産の種類で決まります。次の項目から、具体的にどのような場合に遺言書が役立つかを見ていきます。

遺言書が必要になりやすいケース

次のいずれかに当てはまる場合は、遺言書の作成を検討する価値があります。1つでも当てはまれば、以降の項目で詳しく確認してください。

✏️遺言書の必要性チェック

状況 遺言書がないと起きやすいこと
子どもがいない夫婦 配偶者だけでなく、自分の親や兄弟姉妹も相続人になる
再婚していて、前の配偶者との間に子どもがいる 前の配偶者との子どもも相続人になり、面識のない相続人同士で話し合いが必要になる
不動産・自社株・事業用資産がある 分けにくい財産をどう配分するかで話し合いが長引きやすい
特定の人に多く残したい・寄付したい 相続人以外の人(内縁の相手・お世話になった人・団体)には、遺言がなければ財産を渡せない
相続人が少ない、または一人っ子 話し合いの相手は少なくても、相続人の確定・戸籍収集などの事務は変わらず必要になる
判断能力が十分でない相続人や、所在が分からない相続人がいる 遺産分割協議ができず、成年後見人や不在者財産管理人の選任を待つことになる

子どもがいない夫婦・再婚家庭・前婚の子がいる場合

結論から言うと、これらの事情がある方は、遺言書を作っておくメリットが大きい代表的なケースです。

子どもがいない夫婦

子どもがいない場合、配偶者だけが相続人になるとは限りません。配偶者は常に相続人になりますが民法第890条、それ以外の相続人は、子、直系尊属(父母・祖父母)、兄弟姉妹の順で決まります民法第887条・第889条

子どもがいなければ配偶者がすべて相続する、というのは誤解です。ご両親が存命であればご両親が、ご両親が亡くなっていれば兄弟姉妹(兄弟姉妹も亡くなっていれば甥・姪)が、配偶者とともに相続人になります。

この場合、配偶者はご自身の親や兄弟姉妹ではなく、亡くなった配偶者側の親や兄弟姉妹と遺産分割協議をすることになります。話し合いがまとまらなければ、配偶者はすぐに預貯金を引き出したり自宅を売ったりできません。遺言書があれば、この話し合いを経ずに配偶者へ財産を渡せます。

再婚していて、前の配偶者との間に子どもがいる

前の配偶者との間に生まれた子どもは、離婚後も実の子どもとして相続人であり続けます。今の配偶者やそのお子さんと面識がない場合、遺産分割協議は当事者同士が初めて顔を合わせる場になります。

反対に、今の配偶者の連れ子は、養子縁組をしていない限り、法律上の相続人にはなりません血のつながりや同居の有無ではなく、法律上の親子関係があるかどうかで決まります。「一緒に暮らしているから当然相続人」ではない点も、あわせて確認してください。

遺言書があれば、誰にどの財産を残すかをあらかじめ決めておけるため、面識のない相続人同士が一から話し合う負担を避けられます。

相続人に認知症の方や、疎遠で連絡が取りづらい方がいる場合

将来の相続人の中に、判断能力に不安が出てきた方や、長年連絡を取っていない方がいる場合も、遺言書を作っておく価値があります。

遺産分割協議は、相続人全員が内容を理解して判断できる状態であることが前提です。判断能力が十分でない相続人がいる場合、そのままでは協議ができません民法第3条の2。すでに後見人などが選任されていれば別ですが、そうでなければ成年後見制度を利用し、状況に応じて後見人・保佐人・補助人などに協議に加わってもらうため、家庭裁判所への申立てが必要になることがあります。

連絡が取れない相続人がいる場合も同じです。一人でも欠けたまま行った遺産分割協議は無効になるため、その方を外して手続きを進めることはできません。住所をたどっても所在が分からなければ、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てることになり、ここでも時間がかかります。

遺言書があれば、この遺産分割協議そのものが不要になります。残されたご家族が、成年後見人や不在者財産管理人の選任を待つ間、手続きが止まってしまう事態を避けられる場合があります。

不動産・事業・株式がある場合

不動産や自社株のように、現金のように単純に人数で割れない財産をお持ちの場合も、遺言書を検討する価値があります。

不動産は、相続人の人数で物理的に分けることが難しい財産です。相続人全員の共有名義にする方法もありますが、共有のままにしておくと、売却や建て替えのたびに共有者全員の同意が必要になり、次の世代でさらに権利関係が複雑になっていきます。「とりあえず共有にしておく」という選択が、後の世代の負担を増やすことがあります。

事業を営んでいる方や自社株をお持ちの方も同様です。株式や事業用資産が相続人の間で分散すると、経営の意思決定に複数の相続人の同意が必要になり、事業の継続に支障が出ることがあります。

遺言書で「自宅は誰に」「自社株は後継者に」のように財産ごとの受取人を指定しておけば、共有や分散を避け、財産ごとにまとまった形で引き継がせることができます。

特定の人に多く残したい・寄付したい・内縁の相手に残したい場合

法律上の相続人ではない人に財産を渡したい場合、遺言書がなければ実現できません。

内縁関係のパートナーは、婚姻届を出していない以上、法律上の相続人にはなりません。長年連れ添っていても、遺言書がなければ、その方に財産を残す方法はありません。同じことは、お世話になった友人・団体への寄付にも当てはまります。

遺言書では、財産を相続人以外の人や団体に渡す遺贈という形で指定できます。「全財産の3割を〇〇に遺贈する」のような割合での指定(包括遺贈)と、「この不動産を〇〇に遺贈する」のような個別の指定(特定遺贈)のどちらも可能です。

相続人の中で特定の人に多く残したい場合も、遺言書で指定できます。ただし、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限の取り分があり民法第1042条、これを大きく下回る内容にすると、後から金銭の支払いを求められることがあります民法第1046条遺留分を侵害する遺言も直ちに無効になるわけではありませんが、配慮しておくと後のトラブルを避けやすくなります。

一人っ子や相続人が少ない場合でも確認したいこと

相続人が少なければ遺言書は要らない、と考える方もいますが、確認しておきたい点が2つあります。

相続人が1人だけとは限らない

お子さんが一人であっても、相続人がそのお子さん1人だけとは限りません。配偶者がいれば、配偶者は常に相続人になります民法第890条。この場合、配偶者とお子さんの2人で、分け方を決めることになります。

自宅が主な財産という家庭では、ここが問題になりやすい点です。配偶者がそのまま自宅に住み続けたい場合でも、自宅を配偶者名義にするにはお子さんの同意が必要です。遺言書で自宅を配偶者に相続させると決めておけば、この話し合いを経ずに名義を移せます。

手続きの手間はゼロにはならない

相続人が本当に1人であれば、分け方を決める話し合いは要りません。ただし、手続きそのものがなくなるわけではありません。名義変更のための戸籍収集は必要ですし、自宅で保管していた自筆証書遺言が見つかれば、相続人が1人でも家庭裁判所の検認を受けることになります。

公正証書遺言や、法務局保管制度を使った自筆証書遺言にしておけば、この検認は不要です。相続人が少ない家庭では、争いを防ぐためというより、残された方の手続きを軽くするために遺言書を使う、という考え方になります。

相続人が誰もいない場合

独身で、ご両親もすでに他界し、兄弟姉妹もいらっしゃらない場合は、法律上の相続人が誰もいない状態になることがあります。この場合、内縁の相手など生前に特別な関係にあった方が家庭裁判所に申し立てて財産を受け取れる特別縁故者という制度がありますが、申立てをして家庭裁判所に認められなければ、財産は最終的に国庫に帰属します。特定の人に財産を残したい希望がある場合は、特別縁故者の制度に頼らず、遺言書で遺贈先を指定しておくほうが確実です。

遺言書でできること・できないこと

遺言書は万能ではありません。何を実現できて、何は実現できないのかを理解したうえで作成してください。

遺留分は遺言で消せない

「全財産を長男に相続させる」のように、特定の相続人に偏らせる内容の遺言書を書くこと自体はできます。ただし、兄弟姉妹以外の相続人が持つ遺留分は、遺言によって奪うことはできません民法第1042条

遺留分を侵害する内容の遺言も、それ自体が無効になるわけではありません。ただし、多く財産を受け取った人が、遺留分を侵害された相続人から金銭の支払いを求められることがあります民法第1046条。特定の人に多く残したい場合は、遺留分にどこまで配慮するかを考えたうえで書いてください。

相続人の感情までは整理できない

遺言書は、財産を誰にどう分けるかという法的な効力を持ちますが、相続人の気持ちの整理までは代わりにできません。偏った内容の遺言書を残すと、書かれた理由が分からないまま、財産を少なく受け取った相続人にわだかまりが残ることがあります。

この点への備えとして、遺言書には付言事項という形で、なぜこの分け方にしたのかという気持ちを書き添えられます。法的な効力はありませんが、遺された家族が内容を受け止めるうえで意味を持つことがあります。

税務・実行可能性は遺言だけで解決しない

相続税がかかるかどうか、いくらかかるかは、遺言書の内容ではなく相続財産の総額や相続人の数で決まります。財産の分け方に気を配っても、納税資金をどう用意するかは別に考える必要があります。

また、遺言書に書いた内容が、実際に実行できる内容になっているかも重要です。存在しない財産や、特定できない財産を指定した遺言書は、その部分を実行できません。書いた内容が実現できるかどうかは、財産の状況をふまえて確認してください。

作るならどの方式を選ぶか

ここまでのケースに当てはまり、遺言書を作る方針が決まったら、次は方式を選ぶ段階です。主な方式は自筆証書遺言と公正証書遺言の2つです。

費用をかけずに手軽に作りたい方は自筆証書遺言、方式の不備を避けて確実に残したい方は公正証書遺言が向いています。不動産が複数ある、相続人以外に財産を渡すといった場合は、公正証書遺言のほうが安心です。

よくある質問

独身で子どもがいません。遺言書は必要ですか?
ご両親や兄弟姉妹が相続人になる可能性があるため、確認をおすすめします。配偶者も子どももいない場合、相続人はご両親(存命でなければ兄弟姉妹)になります。特定の人に財産を残したい、内縁の相手に残したいといった希望がある場合は、遺言書がなければ実現できません。相続人が誰もいない見込みの場合も、財産を国庫に帰属させたくなければ遺言書で遺贈先を指定しておく必要があります。
財産が少ないのですが、それでも遺言書は必要ですか?
財産の額と遺言書の必要性は、直接には関係しません。財産が少なくても、相続人が複数いれば遺産分割協議は必要ですし、不動産のように分けにくい財産が1つでもあれば、話し合いが長引くことがあります。財産の額よりも、相続人の顔ぶれと財産の種類で必要性を判断してください。
家族の仲がよければ遺言書は不要ですか?
家族の仲のよさは、話し合いがまとまりやすいことの理由にはなりますが、相続人が誰になるかとは関係ありません。再婚・前婚の子・内縁関係など、法律上の相続関係が複雑になる事情がある場合は、家族仲とは別に遺言書を検討してください。
遺言書はいつ作ればよいですか?
思い立った時点で作成できます。満15歳以上で、遺言の内容を理解し判断できる能力(遺言能力)があれば作成できます(民法第961条)。「まだ早い」と考えて先延ばしにするより、判断能力があるうちに作成しておくほうが確実です。
遺言書を書いた後に気持ちが変わったら、書き直せますか?
いつでも書き直せます。遺言はいつでも撤回でき、新しい遺言書を作れば、内容が食い違う部分は新しい遺言が優先されます(民法第1022条)。一度書いたら変更できない、というものではありません。

まとめ|迷ったら、当てはまるケースがないか確認を

遺言書は、すべての方に必ず必要というものではありません。財産の額や家族の仲のよさよりも、相続人の顔ぶれと財産の種類で、必要性は変わります。

子どもがいない夫婦、再婚して前婚の子がいる、不動産や事業用資産がある、相続人以外に財産を渡したい。こうした事情が1つでもあれば、遺言書を作っておく価値があります。遺言書は、相続人同士の話し合いの負担を減らし、渡したい相手に確実に財産を残すための手段です。

方針が決まったら、自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらにするかを選ぶ段階に進んでください。

自分の場合、遺言書は必要か迷ったら

ご家族の状況やお持ちの財産をうかがったうえで、遺言書を作っておいた方がよいかどうかを一緒に確認できます。作成する場合の方式選びから、公正証書遺言の作成サポートまでお引き受けしています。お電話・メール・LINEからお問い合わせください。

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