親に借金があっても、子どもとしては親の借金まで負いたくないですよね。
親の借金は、原則として子どもに支払義務はありません。ただし、例外として、子どもが親の借金の連帯保証人になっているような場合や親が亡くなった場合には、子どもは親の借金を支払わなければなりません。
親が亡くなった後に、子どもが親の借金を免れる方法として相続放棄があります。
相続放棄をすれば親の借金から解放されて万々歳のようですが、相続放棄にも注意点やデメリットがあります。
ここでは、親の借金があったときの相続放棄、そのデメリットや注意点について解説します。
親の借金子どもに返済義務はあるの?
親に借金があっても、親が存命か亡くなっているかによって、子どもに支払義務があるかどうか変わってきます。
親が存命の場合
親が存命の場合、原則として、子どもには親の借金を支払う義務はありません。
ただし、子どもが親の借金の連帯保証人をしている場合には、これは子ども自身の借金でもあるので、子どもにも支払義務があります。
親に借金がある場合、できるだけ生前に借金をきれにして欲しいと思うでしょう。借金の内容にもよりますが、親に債務整理をしてもらう必要があるかもしれません。
親が借金を残して亡くなった場合
親が借金を残して亡くなると、法律上、子どもは親の借金も相続することになるので、親の借金を支払わなければなりません。
親子である限り、実の親子であろうと養親子関係であろうと同じです。
例えば、両親が離婚し、父の戸籍から抜けて母の戸籍に入り、長年父とは疎遠状態だったということもよくあります。このような場合でも、父が借金を残して亡くなると、親子であることに変わりはないので、絶縁状態であったとしても子どもは親の借金を相続し、親の借金を支払う義務があります。
相続放棄で借金を無くす
親が借金を残して亡くなると、子どもは借金を相続するので親の借金を支払わなければなりません。亡くなった親の借金を支払わなくて済むようにする方法の一つが、「相続放棄」です。
相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったことになります。相続人ではないことになる結果、借金を相続することもなくなります。
また、相続放棄をするのは、借金があることが判明している場合ばかりとは限りません。当事務所の相談の中には、
- 借金があるかどうかははっきりしないが生前の生活ぶりから借金がある可能性があり、相続するような財産がないような場合
- 亡くなった親とは疎遠(絶縁状態)で、財産も借金も詳細はわからないが、財産があっても相続するつもりはないし、借金が出てくると困るといった場合
このようなケースで、相続放棄を選ばれる方もいらっしゃいます。
相続放棄のメリット
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったことになります。その結果次のようなメリットがあります。
- 被相続人の借金を負わない
- 相続に関するわずらわしさから解放される
被相続人の借金を負わない
相続放棄をしなければ、相続人として被相続人の借金を支払わなければならなくなります。
しかし、相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになります。相続人ではなくなるので、被相続人の借金を負うことはなくなります。
相続したくないのは、借金だけとは限りません。例えば、どうやっても処分できそうにない不動産(負動産とも最近は言われますね)、このような負動産も相続放棄をすれば相続しなくて済むようになります。
相続に関するわずらわしさから解放される
相続をすると、相続に関してさまざまなわずらわしいことがあります。
例えば、他の相続人と遺産の分け方を話し合ったり、相続した借金をどこからどう払おうか考えたり、銀行の預貯金の解約手続きをしたりなどなど。スムーズに進んでもかなりの手間ですが、相続人同士でもめると、全く相続が進まないということもあります。
しかし、相続放棄をすると、相続人ではなくなるので、このような煩わしいことは一切する必要がありません。
相続放棄のデメリット
こうして見てくると、相続放棄はいいことずくめと思えるかもしれません。しかし、相続放棄には次のようなデメリットもあります。
- 借金のみの相続放棄はできない
- 相続放棄のやり直しはできない
- 相続関係が変わり親族間でトラブルになることがある
- 生前に相続放棄はできない
借金のみの相続放棄はできない
相続放棄で、借金のみを放棄することはできません。
親の借金を相続したくなくて相続放棄をすると、借金だけでなくて親の財産も一切相続できなくなってしまいます。相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになります。相続人ではないことになるため、借金だけでなく財産も相続することができません。
そのため、親に借金だけでなく財産もあるような場合、相続放棄をするのかしないのかは慎重に検討する必要があります。
相続放棄のやり直しができない
相続放棄を一度してしまうと、後で取り消すことはできません。厳密に言うと絶対にできないというわけではありませんが、取り消しはまずできないと思った方がいいでしょう。
また、相続放棄が却下されてしまうと、再度相続放棄をしてみることもできません。3か月を超えて相続放棄をするときには相続放棄の難易度が上がりますので、却下されることがないように慎重な対応が求められます。
相続関係が変わりトラブルになることもある
親に借金があるという理由で子どもが全員相続放棄をすると、相続関係が変わってしまいます。
つまり、子どもが全員相続放棄をすると、次の順位(第二順位)の親の両親や場合によっては親の祖父母が相続人になりますし、第二順位の相続人がいない場合には、次の順位として亡くなった親の兄弟姉妹が相続人になります。
相続放棄をして、次の順位の相続人に何も言わないでいると、ある日親の債権者から相続人になった人に連絡が来て、そのとき初めて相続人になったことと借金があったことを知ることになります。
そうすると、親族間で「なんで言ってくれなかったんだ」とトラブルに発展することがあります。
借金があって相続放棄をする際は、次の順位の親族にも事前に話をしておくのが無難です。
生前には相続放棄できない
親の存命中に借金があることがわかれば、亡くなる前に相続放棄をしてしまいたいと思うこともあるようです。実際にそのような相談もあります。
しかし、生前には相続放棄をすることはできません。
親が亡くなって初めて相続人という立場になるので、その段階で相続放棄できるようになるわけです。
生前に親の借金をどうにかしたいと思われるときは、親の債務整理を検討してみるのがいいかもしれません。
相続放棄すべきかどうかのポイント
相続放棄にはメリット・デメリットがあります。親に借金があって相続放棄するとき、どのような点に着目して相続放棄するかどうか決めればいいでしょうか。
親の借金のほうが財産より多い
借金のほうが財産より明らかに多いときは、相続放棄を選択すればいいでしょう。逆に、財産のほうが借金より多いときは、財産を換価して借金の返済に充てて、余った分を相続すればいいでしょう。
問題は、借金と財産を比較してどちらが多いかわからないとき、財産があっても換価するのが難しいと思われるときです。このようなときは、限定承認という方法があります。ただし、限定承認は実務上はあまり利用されていません。
亡くなった親と疎遠で財産の内容がわからない
子どもの頃に両親が離婚し、その後亡くなった親と疎遠または絶縁状態で、借金や財産の有無や内容が全くわからないということがあります。
生前にどのような生活をしていたのかもわからないので、財産がどこにありそうか、借金をしていそうかといったことは全く把握できません。
このようなとき、たとえ財産がたくさんあったとしても相続するつもりがないということであれば、念のため相続放棄を選択することがあります。相続放棄をすれば、仮に借金があったとしても、借金を相続することはありません。
事業を引き継がない
亡くなった親の借金の大部分が事業に関する借金であるとき、事業を引き継ぐ相続人が借金も全て相続するようにできればいいと思いませんか。
銀行と話をして、事業を承継する相続人が借金を全部引き継ぎ、他の相続人は借金の支払いを免除してもらうことができれば、事業を承継しない相続人は相続放棄をする必要はなくなるかもしれません。
相続放棄をするときのポイント
相続放棄は家庭裁判所で手続きが必要
相続放棄は家庭裁判所で手続きをしなければ法律上の相続放棄とはなりません。
他の相続人や債権者に「相続放棄します」と伝えただけでは、相続放棄したことにはなりません。
被相続人に借金がある場合には、家庭裁判所で相続放棄を受理されたことの証明書を債権者に交付すれば、その後債権者から被相続人の借金の督促を受けることはありません。
相続放棄には期限がある
相続放棄は、相続の開始を知った日から3か月以内に家庭裁判所に申述の手続きをしなければなりません。親が亡くなったことは、一般的には亡くなった日に知るでしょうから、その日から3か月以内ということです。
ただし、例外もあります。
例えば、絶縁状態にあった親が亡くなったことを、亡くなって3か月以上経ってから知るということもあります。この場合は、知った日から3か月以内に相続放棄をします。
また、借金があることを知ったのが被相続人が亡くなってから3か月以上経過してからということもあります。この場合も、相続放棄が認められる場合がありますので、あきらめずに相談してください。
単純承認とみなされ相続放棄できなくなることがある
3か月以内であっても一定の行為をすると相続を承認したものとみなされて、相続放棄できなくなってしまう場合があります。
一番問題になるのは、「相続財産の処分」です。
相続財産の処分とは、相続財産を売却したり、被相続人の預金を引き出して自分のために使ったような場合などが当たります。
相続財産の処分をするとそれ以後は相続放棄ができなくなってしまうので、親に借金があって相続放棄をする場合、財産はそのままにして一切手を付けないでおくようにしましょう。
相続放棄の失敗例 | 司法書士事務所神戸リーガルパートナーズ
まとめ
親が借金を残して亡くなった場合、子どもは相続人として親の借金を引き継ぎます。親の借金を免れる方法として、相続放棄があります。相続放棄をすれば、親の借金を支払う義務はなくなります。
相続放棄は家庭裁判所で手続きをしなければなりませんし、3か月以内という期限もあるので、専門家に相談しながら進めるのが無難です。
司法書士事務所神戸リーガルパートナーズは、これまでも相続放棄に関する相談を多数受けてきました。
相続放棄の相談は司法書士事務所神戸リーガルパートナーズまでお気軽にどうぞ。