遺言

遺言書の書き方|全財産を1人に・不動産・預貯金の書き方の注意点

「妻に全財産を相続させる」「自宅は長男に」。遺言書の文例をネットで探すと、似たような一文がたくさん見つかります。ですが、その文例をそのまま書き写して、本当にご自身の希望どおりに実行されるでしょうか。

遺言書は、財産や相手を誰が読んでも一つに特定できる形で書かなければ、書かれたとおりに実行できません。全財産を1人に残したい場合、不動産がある場合、預貯金や株式がある場合では、書くときに気をつける点がそれぞれ違います。

このページでは、目的別に何を確認して書けばよいかを説明します。例文をそのまま使うと危ない理由や、遺言執行者・付言事項の使い方もあわせて確認できます。方式の要件(全文・日付・氏名・押印など)は、あわせて自筆証書遺言のページをご覧ください。

遺言書は「書く前に決めること」で9割決まる

遺言書の文面をどう書くかより先に、次の4つを決めておいてください。誰に、何を、どの割合で残すか、そして誰が手続きを進めるかです。

財産の書き出し方や相続人の確認方法、遺留分への配慮は、自筆証書遺言の要件とあわせて別のページで詳しく説明しています。ここでは、決めた内容を実際にどう書けば実行できる形になるかを、目的別に見ていきます。

どの目的で書く場合も、大切にしてほしいことがあります。財産と受け取る人を、誰が読んでもすぐに分かる形で書くことです。書いているときのご本人には当たり前のことでも、遺言書はご本人が亡くなった後に、ご家族が読むものです。たとえば「自宅」とだけ書いても、ご本人には分かっていた場所が、読む側には伝わらないことがあります。

全財産を1人(配偶者・子)に相続させる場合

この場合の書き方はシンプルです。「遺言者の有する一切の財産を、妻〇〇に相続させる」のように、財産を個別に書き出さず、まとめて指定してください。

不動産や預貯金を1つずつ書き出す方法もありますが、書き漏れた財産が後から見つかると、その部分だけは遺言の対象外になり、相続人全員で分け方を話し合う遺産分割協議が必要になります。全財産を1人に残したいという希望とは裏腹に、一部の財産だけ他の相続人を交えた話し合いが必要になってしまいます。財産をまとめて指定しておけば、この書き漏れの心配自体がなくなります。

ただし、注意しておきたい点が1つあります。兄弟姉妹以外の相続人には遺留分という最低限の取り分があり民法第1042条、これは遺言によっても奪えません。たとえば「配偶者に全財産を相続させる」と書いても、お子さんがいる場合、そのお子さんから配偶者に対して金銭の支払いを求められることがあります民法第1046条全財産を1人にまとめて残すこと自体は問題ありませんが、他に相続人がいる場合は、遺留分を主張される可能性が残ることを理解したうえで書いてください。

不動産を相続させる場合

住所ではなく、登記事項証明書に記載されているとおりの表示で書いてください。

「自宅を長男に相続させる」という書き方でも、法律上は問題ありません。ただし、「自宅」という言葉だけでは、建物と土地の両方を指すのか、隣接する私道の持分や別の筆の土地が含まれるのかが、読み手には伝わりません。含まれるかどうかが読み取れない部分は、結局、その部分だけ相続登記や名義変更ができないまま残ってしまいます。

登記事項証明書の表示どおりに書く

不動産を特定するときは、登記事項証明書に記載されている所在・地番(土地の場合)、所在・家屋番号(建物の場合)をそのまま書き写してください。

✏️不動産の書き方の例

次の不動産を、長男〇〇(生年月日)に相続させる。
一 所在 神戸市〇〇区〇〇町〇丁目 地番 〇番〇
  地目 宅地 地積 〇〇.〇〇平方メートル
二 所在 神戸市〇〇区〇〇町〇丁目〇番地〇 家屋番号 〇番〇
  種類 居宅 構造 〇〇造〇階建 床面積 〇階 〇〇.〇〇平方メートル

増築していて、登記の表示が古いままの場合

建物を増築したのに、法務局への表示変更登記をしていない場合、登記事項証明書には増築前の古い床面積や構造が記載されたままになっています。証明書の表示をそのまま書き写しただけでは、増築した部分が遺言の対象に含まれるのかどうかが読み取れません。

「増築部分を含む建物全部」のような一文を加えることは、遺言の対象を明確にする助けにはなります。ただし、この一文だけで、増築による床面積・構造の変更を登記に反映させる表示変更登記の代わりになるわけではありません。増築の状況によって必要な対応は変わるため、遺言の書き方とあわせて、表示変更登記の要否をご自身の状況に応じて専門家に確認してください。

私道持分・別筆の土地に注意する

自宅の敷地とは別に、前面道路の私道持分や、隣接する別の筆の土地を持っていることがあります。「自宅」とだけ書くと、これらが含まれるのか読み取れず、その部分だけ手続きできなくなることがあります。登記事項証明書を取り、ご自身が持っている不動産を一つずつ確認してから書いてください。

預貯金・株式などの金融資産を書く場合

金融機関名と、まとめて残すか個別に残すかが決まれば、書き方はそれほど難しくありません。

特定の口座だけを指定したい場合は、金融機関名・支店名・預金の種類(普通・定期など)に加え、分かる範囲で口座番号も書いてください。特定できる情報を多く書くほど、亡くなった後の手続きで迷いにくくなります。

✏️預貯金の書き方の例

遺言者は、遺言者名義の〇〇銀行〇〇支店の普通預金全部を、長女〇〇(生年月日)に相続させる。

複数の金融機関に口座をお持ちの場合、1つずつ書き出すと、口座を解約した後に残高がなくなっていたり、新しく口座を作っていたりして、実際の財産と食い違うことがあります。「遺言者名義の預貯金の全部を、長女〇〇に相続させる」のようにまとめて書いておけば、この食い違いを避けられます。

株式や投資信託をお持ちの場合は、証券会社名と、口座の種類(特定口座・一般口座など)を書いてください。銘柄までは書かなくても、証券会社の口座全体を指定する書き方であれば問題ありません。

相続人以外へ遺贈・寄付したい場合

相続人以外の方や団体に財産を渡す場合は、「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。「相続させる」は、法律上の相続人に対してだけ使う表現だからです。お世話になった友人、内縁の相手、法人・団体に財産を渡す場合は、遺贈という形になります。

✏️遺贈の書き方の例

遺言者は、遺言者の有する財産のうち、現金〇〇万円を、友人〇〇(住所・生年月日)に遺贈する。

受け取る方を特定するときは、氏名だけでなく、住所と生年月日もあわせて書いてください。同姓同名の方がいた場合、氏名だけでは誰を指しているのか判断できないことがあります。

社会福祉団体や自治体などに寄付したい場合は、事前に寄付を受け付けているかどうかを団体に確認しておいてください。団体によっては、不動産のような現物の寄付は受け付けておらず、換金してからの寄付に限定していることがあります。その場合、遺言執行者が不動産を売却してから寄付を実行する形になるため、遺言執行者の指定がいっそう重要になります。

遺言執行者・付言事項・財産目録の使い方

遺言執行者は氏名・住所を書いて指定し、付言事項は最後に自由な文章で書き添えます。

遺言執行者の指定

遺言執行者は、亡くなった後に遺言の内容を実行する人です。指定しておくと、預貯金の解約や不動産の名義変更を、その人が中心になって進められます。財産を受け取る相続人ご本人を指定することもできます。

✏️遺言執行者の指定文言の例

遺言者は、この遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
住所 神戸市〇〇区〇〇町〇丁目〇番〇号
氏名 〇〇〇〇 生年月日 〇〇〇〇年〇月〇日

指定できる人の条件や、指定しなかった場合にどうなるかは、自筆証書遺言の要件のページで詳しく説明しています。

付言事項の書き方

付言事項には、法的な効力はありません。なぜこの分け方にしたのか、家族への感謝など、自由な文章で書き添えられます。財産の指定を書き終えた後、遺言書の最後に続けて書いてください。

⚠️

付言事項に「〇〇には遺留分を請求しないでほしい」と書いても、法的な強制力はありません。遺留分に配慮した分け方にするか、請求されても構わないという前提で書くか、どちらかを選んでおいてください。

財産目録を添付する場合

財産の一覧を別紙にする場合、その財産目録だけはパソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付したりできます。ただし、目録の全ページに署名と押印が必要です。詳しい要件は自筆証書遺言の要件のページで確認してください。

例文をそのまま書き写すと起きやすい失敗

例文はあくまで型であり、ご自身の財産・家族構成に置き換えて初めて意味を持ちます。ここまでの例文をそのまま書き写した場合に起きやすい失敗を挙げます。

置き換えるべき部分を書き換えずに残してしまう

例文の「〇〇」や「長男」といった部分を、ご自身の状況に置き換えずにそのまま書いてしまう失敗です。氏名や続柄が実際と違う内容になっていると、誰を指しているのか特定できず、その部分の効力が問題になります。書き終えたら、例文由来の言葉が残っていないか、最初から読み返して確認してください。

自分の財産構成に合っていない例文を使う

「全財産を1人に」の例文を使いながら、実際には一部の不動産だけは別の人に残したいというケースがあります。例文をそのまま使うと、本来分けたかった財産まで1人に渡る内容になってしまいます。まず何を誰にどの割合で残すかを決めてから、それに合う書き方を選んでください。この記事の目的別の項目を、複数組み合わせて使ってもかまいません。

方式の要件を満たさないまま清書する

例文をパソコンで確認した後、自筆証書遺言として仕上げる段階で、全文の自書・日付・氏名・押印といった要件を見落とすことがあります。内容の書き方がどれだけ正確でも、方式の要件を1つでも欠くと、遺言書として認められません。清書する前に、方式の要件を必ず確認してください。

よくある質問

パソコンで作った文例をそのまま印刷して使ってもいいですか?
使えません。財産目録を除く本文は、全文をご自身の手で書く必要があります。パソコンで作った文章は、内容の検討や下書きの段階で使うのはかまいませんが、最終的には手書きで書き写してください。財産目録だけは、パソコンで作成したり、通帳のコピーや登記事項証明書を添付したりできます。
遺言書に押す印鑑は、実印でないとだめですか?
実印である必要はなく、認印でもかまいません。ただし、後から「本人が押したものか」と争いになることを避けたい場合は、実印を押しておく方法もあります。スタンプ印(インクが浸透して劣化しやすいもの)は避けてください。
財産の一部だけ遺言書に書いて、残りは何も書かなくていいですか?
書かなかった財産については、相続人全員で分け方を話し合う遺産分割協議が必要になります。書き漏れを防ぐには、個別に指定した財産のほかに「その他一切の財産は〇〇に相続させる」という一文(受け皿条項)を入れておく方法があります。この一文があれば、書き忘れた財産や、後から見つかった財産もカバーできます。
一度書いた遺言書の内容を、後で書き直すことはできますか?
いつでも書き直せます。遺言はいつでも撤回でき、新しい遺言書を作れば、内容が食い違う部分は新しい遺言が優先されます。書き直す場合は、古い遺言書を破棄したうえで新しく1通にまとめて書き直すほうが、どちらが新しいかで混乱が生じにくくなります。
縦書き・横書き、どちらで書けばいいですか?
どちらでもかまいません。法律上の決まりはなく、便箋でもコピー用紙でも書けます。ただし、鉛筆や消せるボールペンのように後から書き換えられる筆記具は避け、消えないボールペンや万年筆で書いてください。法務局の保管制度を利用する予定がある場合は、A4サイズなど別途の様式ルールがあります。

まとめ|文例は、自分の状況に置き換えて初めて意味を持つ

遺言書の書き方は、誰に・何を・どの割合で残すかによって変わります。全財産を1人に残す場合はまとめて指定し、不動産は登記事項証明書のとおりに、預貯金は金融機関名までを目安に書いてください。相続人以外に渡す場合は「相続させる」ではなく「遺贈する」と書きます。

この記事の例文は、そのまま書き写すためのものではなく、考え方を示す型です。ご自身の財産と家族構成に置き換え、書き終えたら方式の要件(全文の自書・日付・氏名・押印)を必ず確認してください。

書いた遺言書に不安があれば

ご自身で書いた遺言書の内容が、実際に実行できる書き方になっているかを確認できます。方式に不安がある場合は、公正証書遺言への切り替えのご相談も承っています。お電話・メール・LINEからお問い合わせください。

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