銀行や法務局で「遺産分割協議書を持ってきてください」と言われ、はじめてその名前を知った方も少なくありません。話し合いはまとまっているのに、書面にする段階で手が止まってしまうことがあります。
遺産分割協議書とは、誰が何を相続するかの合意内容を、名義変更などの手続きで使える形にまとめた書面です。決まった書式はありませんが、財産の書き方や署名・押印には、間違えると手続きが進まなくなる箇所があります。
このページでは、作成前に確認すること、書く内容、財産ごとの書き方、必要な書類、提出までの流れを順に説明します。ひな形をそのまま使ってよいのか、後から財産が見つかったらどうなるのかも確認できます。
先にひな形を埋めるのではなく、相続人と財産が確定しているかを確かめてから書き始めてください。作り直しになると、遠方のご家族にもう一度実印をお願いすることになります。
遺産分割協議書とは|何のために作るのか
遺産分割協議書とは、相続人全員で話し合って決めた「誰が何を相続するか」の合意内容を、書面にまとめたものです。話し合いそのものを遺産分割協議、その結果を記録した書類を遺産分割協議書と呼びます。
相続人は、いつでも協議で遺産を分割できるとされていますが民法第907条第1項、その合意を書面にしなければならない、という決まりがあるわけではありません。それでも実際にはほとんどの相続で作成します。理由は次の2つです。
このページは、分け方が決まった後の書面づくりを説明しています。まだ何から始めるか整理できていない場合は遺産分割とは?進め方・4つの分け方をご覧ください。
遺産分割協議書は何のために必要?
合意した内容を、手続きの窓口に対して示すためと、後から相続人の間で認識がずれることを防ぐためです。
相続の手続きは、話し合いで決めただけでは完了しません。不動産の名義を変えるには法務局へ、預貯金を解約するには金融機関へ、それぞれ「この財産は誰が受け継ぐことになったのか」を示す必要があります。その合意内容を証明するのが遺産分割協議書です。
もう一つの役割は、時間が経ってからの食い違いを防ぐことです。相続の手続きは数か月から年単位に及ぶことがあり、その間に「実家は自分が引き継ぐ話だったはずだ」といった認識のずれが生じることがあります。全員が署名し実印を押した書面が残っていれば、何をどう決めたのかを後から確認できます。
主な提出先は次のとおりです。
- 法務局:不動産の相続登記
- 金融機関:預貯金の解約・払戻し
- 証券会社:株式・投資信託などの名義変更
- 税務署:相続税の申告で、分割内容に応じた特例などを使う場合に、協議書の写しを添えることがあります(税額や特例の判断は税理士にご確認ください)
協議書がなくても手続きできる場合はある?
あります。次のような場合は、遺産分割協議書がなくても手続きが進むことがあります。
- 相続人が1人だけの場合:分ける相手がいないため、そもそも協議が成立しません。
- 遺言書のとおりに手続きする場合:遺言書と戸籍などで手続きできることがあります。
- 法定相続分のとおりに分ける場合:法定相続分による相続登記は、協議書がなくても申請できます。
- 金融機関所定の書類で足りる場合:相続人全員が署名・押印する所定の用紙が用意されていることがあります。
必要書類の扱いは提出先によって異なります。取引のある金融機関が複数ある場合、片方は所定の用紙で足りても、もう片方は協議書を求める、ということが起こります。提出先が複数ある場合は、作っておいたほうが手間が少なくなります。
なお、不動産を相続した場合の相続登記は、2024年4月1日から義務化されています。原則として不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請が必要なため、協議書の作成もこの期限を意識して進めてください(詳しくは相続登記)。
作成前に確認する4つのこと
書き始める前に、遺言書・相続人・財産・特別な事情の4点を確認してください。この4つが固まっていない状態で作った協議書は、後から作り直しになる可能性があります。
✏️作成前チェック
| 確認すること | 何で確認するか | 確認しないと |
|---|---|---|
| ① 遺言書があるか | 自宅・貸金庫・公証役場・法務局 | 遺言書が後から出ると、分け方の前提が変わる |
| ② 相続人は誰か | 亡くなった方の出生から死亡までの戸籍 | 1人でも欠けると協議書が無効になる |
| ③ 財産は何があるか | 登記事項証明書・通帳・取引残高報告書など | 後から見つかると、その分の協議が必要になる |
| ④ 特別な事情はないか | 相続人に未成年者・判断能力に不安のある方・行方不明の方がいないか | 通常どおり署名を集めても、有効性が問題になる |
① 遺言書と ② 相続人|先に固めるべき2つ
遺言書があると、分け方の出発点そのものが変わります。協議書を作った後に遺言書が見つかると、内容によっては一からやり直しになるため、先に確認してください。
相続人の確定は、戸籍で行います。家族の認識だけで判断せず、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をすべてたどってください。前の婚姻のお子さんや、認知されたお子さんが判明することがあります。相続人の範囲は相続人の範囲と順位で説明しています。
③ 財産|「だいたい」で書き始めない
財産は、協議書に書ける程度まで具体的に把握しておきます。不動産なら登記事項証明書、預貯金なら通帳やキャッシュカードで、金融機関名・支店・口座番号まで確認します。この段階が曖昧なままだと、次のH2で説明する「財産の特定」で必ず行き詰まります。
財産の調べ方は遺産とは/相続財産のあらましをご覧ください。
④ 特別な事情|通常の協議書を作ってよいか
相続人の中に未成年の方、認知症などで判断する力に不安のある方、連絡が取れない方がいる場合は、そのまま署名を集めてよいかを先に確認してください。適切な代理を立てないまま進めた遺産分割は、後から有効性を争われることがあります。
それぞれの進め方は、このページの後半で説明します。
相続人と財産が確定する前に、署名・押印を集めないでください。遠方のご家族に郵送で署名をお願いした後に相続人や財産が追加で判明すると、もう一度同じ依頼をすることになります。この順番を守ってから署名を集めてください。
遺産分割協議書に書く基本事項
遺産分割協議書に決まった書式はありません。手書きでもパソコンでも、用紙の大きさにも制限はありません。ただし、書かれている内容から「誰が」「どの財産を」「どれだけ」受け継ぐのかが一つに読み取れることが必要です。ここが曖昧だと、提出先で受け付けてもらえません。
✏️記載事項と確認する資料
| 書く内容 | 何を見て書くか | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 被相続人の氏名・死亡日・最後の住所・本籍 | 除籍謄本・住民票の除票 | どの相続の話かを特定するため |
| 相続人の住所・氏名 | 印鑑登録証明書 | 証明書の記載に合わせる |
| 不動産 | 登記事項証明書 | 住所ではなく地番・家屋番号で書く |
| 預貯金 | 通帳・キャッシュカード | 金融機関名・支店名・種別・口座番号まで |
| 株式・投資信託 | 取引残高報告書 | 証券会社名・口座番号・銘柄・株数 |
| 誰が取得するか | 相続人全員の合意内容 | 財産ごとに取得者を明記する |
| 後から見つかった財産の扱い | — | 定めておくと作り直しを避けられる |
| 作成日・署名・実印 | — | 相続登記や金融機関の手続きで使う場合は全員分 |
被相続人と相続人をどう特定するか
被相続人は、氏名・死亡年月日・最後の住所・本籍で特定します。同姓同名の可能性を考えれば、氏名だけでは足りないためです。死亡年月日や本籍は、除籍謄本に記載されているとおりに書き写します。
相続人の住所・氏名は、印鑑登録証明書に記載されているとおりに書くのが基本です。マンション名を省略した、番地を略記した、といった程度の違いで手続きが止まることは通常ありませんが、証明書に合わせておけば提出先で確認の手間が生じません。
不動産の書き方|登記事項証明書のとおりに書く
不動産は、普段使っている住所(住居表示)ではなく、登記事項証明書に記載された表示で書きます。ここが最も間違いが多い箇所です。
- 土地:所在・地番・地目・地積
- 建物:所在・家屋番号・種類・構造・床面積
- マンション:一棟の建物の表示・専有部分の表示に加え、敷地権の表示も必要になります
「〇〇市〇〇町1丁目2番3号」は住居表示、「〇〇市〇〇町一丁目2番3」は地番で、別のものです。
なお、書き方とは別に、そもそもどの不動産があるのかを洗い出す作業が必要です。登記事項証明書は、対象の不動産が分かっていて初めて取得できるものだからです。手元の権利証(登記識別情報通知・登記済証)や、市区町村で取得できる名寄帳をあわせて確認します。固定資産税の納税通知書だけを見て判断すると、課税されていない公衆用道路の持分などが抜け落ちることがあります。
預貯金・株式などの書き方
預貯金は、金融機関名・支店名・預金の種別・口座番号まで書く方法が基本です。一方で、その金融機関の口座をすべて同じ相続人が取得するのであれば、「〇〇銀行〇〇支店の預貯金全部」のように口座番号まで特定しなくても手続きできることがあります。口座ごとに取得者を分ける場合は、口座番号まで書いて区別してください。
株式や投資信託も同じ考え方です。証券会社名・支店名・口座番号で特定し、同じ口座の中の資産をすべて同じ相続人が取得するなら、銘柄や株数まで書かなくても手続きできることがあります。銘柄ごとに取得者を分けるときは、銘柄と株数を書いて区別します。自動車は登録番号と車台番号で特定します。
残高を書かない方法もあります。手続きの日までに利息が付いたり引き落としがあったりして金額が変わることがあるためです。口座を特定したうえで「の預貯金全部」と書く形が使われます。
日付・署名・押印
日付は、遺産分割の話し合いが成立した日を書きます。遠方の相続人に郵送で回して署名してもらう場合は、最後の方が署名した日とすることもあります。
署名は、相続人本人に自書してもらってください。相続登記や金融機関の手続きで使う協議書では、実印で押印し、印鑑登録証明書を添えるのが基本です。実印は、市区町村に印鑑登録した印鑑のことです。
協議書が複数ページになる場合は、ページのつながりを示すために、綴じ目に相続人全員の実印で契印を押すことがあります。同じ内容の協議書を複数部作り、それが同一の書面であることを示すために押すのが割印です。目的が違うため、混同しないでください。いずれも法律で必ず求められるものではありませんが、提出先の取扱いによって求められることがあるため、あわせて確認してください。
訂正に備えてあらかじめ押しておく捨印については、慎重に判断してください。訂正の扱いは、提出先や訂正する箇所によって異なります。また、捨印があると自分の関与しないところで内容を書き換えられる余地が生まれるため、押すこと自体に抵抗を感じる相続人もいます。全員が納得していない状態で捨印を求めるより、記載内容を先に確認するほうが確実です。
作成から提出までの流れ
協議書の作成は、①情報をそろえる → ②案を作って全員で確認する → ③署名・押印 → ④添付書類をそろえる → ⑤提出先ごとの手続き、の順に進みます。署名を集めるのは4番目ではなく3番目です。内容を全員が確認した後に集めます。
✏️協議書作成から手続き完了まで
財産と相続人の情報をそろえる
戸籍で相続人を確定し、登記事項証明書・通帳・取引残高報告書などで財産を確認します。協議書に書き写す情報を、この段階ですべて手元に用意します。
協議書の案を作り、全員で内容を確認する
決まった内容を文章にして、相続人全員に見てもらいます。この段階で誤りを見つけておけば、署名を集め直す事態を避けられます。遠方の方にはメールやコピーの郵送で確認してもらってもかまいません。
全員が署名し、実印を押す
相続人本人が自書し、実印を押します。全員が集まる必要はなく、協議書を郵送で順番に回して署名・押印してもらう方法(持ち回り)でもかまいません。複数ページになる場合は、綴じ目に契印を押すことがあります。
印鑑登録証明書などをそろえる
相続人全員の印鑑登録証明書を用意します。あわせて、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍、相続人の戸籍、住民票なども手続きで使います。必要な書類と有効期限の扱いは提出先によって異なります。
提出先ごとに手続きを進める
不動産は法務局で相続登記、預貯金は各金融機関で解約・払戻し、株式は証券会社で名義変更を行います。提出先ごとに書式や添付書類が異なるため、1か所終わったら次へ、と順に進めます。
何通作る?原本は誰が保管する?
部数に決まりはありません。相続人の人数分を作って全員が1通ずつ持つ方法と、1通だけ作って必要な手続きに使い回す方法があります。
提出先の数だけ作らなければならない、というわけではありません。法務局に相続登記を申請するときは、コピーを添えて原本を返してもらう手続き(原本還付)があります。金融機関でも、確認後に原本を返却してもらえる場合があります。同じ協議書を順番に使い回せるため、まず1通で始めて、必要に応じて増やす進め方でも支障ありません。
ただし、相続人全員が手元に控えを持っておきたい場合や、複数の手続きを同時並行で進めたい場合は、人数分・提出先分を作っておくと待ち時間が減ります。同じ内容の協議書を複数部作るときは、それらが同一の書面であることを示すために割印を押すことがあります。
原本は、不動産を取得した方など、主要な財産を受け継ぐ方が保管することが多いのですが、決まりはありません。全員で相談して決めてください。
協議書ができたら、次は名義変更の手続きです。不動産は相続登記、預貯金は銀行口座の相続手続きで、それぞれの流れと必要書類を説明しています。
ひな形をそのまま使ってよい?
ひな形は出発点としては役立ちますが、そのまま空欄を埋めるだけで完成することはあまりありません。ひな形は「相続人が2〜3人、財産は自宅と預金が1つずつ」といった標準的な形を想定して作られており、実際の相続はそこから外れることが多いためです。
次のような場合は、ひな形の項目を足したり書き換えたりする必要があります。
- マンションを相続する:敷地権の表示が必要で、土地・建物の欄だけでは足りません
- 代償金を支払う:誰が誰にいくらを、いつまでにどう支払うのかを書き加えます
- 後から財産が見つかったときの扱いを決めておく:この条項がないひな形も多くあります
- 相続人が4人以上いる:署名欄が足りず、ページが増えたときの押印の扱いを考える必要があります
- 相続人に未成年の方・判断能力に不安のある方・行方不明の方がいる:署名する人自体が変わります
ひな形の項目をそのまま残してしまう失敗もあります。使わない財産の欄を消し忘れる、残高欄に古い金額を書いたまま提出する、といったものです。記載に誤りがあると、署名と押印をもう一度お願いすることになります。遠方のご家族がいる場合、この負担は小さくありません。
自分で作成できますか?
作成できます。遺産分割協議書の作成に資格は必要なく、相続人ご自身で作ってかまいません。
実際、相続人が配偶者と子だけで、財産も自宅と預貯金というケースであれば、ご自身で作成して手続きを終える方もいます。まずは、このページの記載事項を確認しながら案を作ってみてください。
一方で、次のような場合は、作成前に専門家に相談することを検討してください。手戻りが起きたときの負担が大きいためです。
- 不動産が複数ある、遠方にある、共有持分がある
- 相続人が多い、長く連絡を取っていない方がいる
- 代償金の支払いなど、金銭のやり取りが伴う
- 相続人に未成年の方・判断能力に不安のある方・行方不明の方がいる
- 亡くなった方が外国籍だった:どの国の法律にしたがって相続するかという判断が先に必要になります
- 相続人に外国籍の方がいる:日本の戸籍だけでは身分関係を確認できないことがあり、国籍や出生地、親族関係に応じた書類で証明することになります
- 海外にお住まいの相続人がいる:印鑑登録証明書に代わる署名証明などが必要になります
海外にお住まいの相続人がいる場合の必要書類と進め方は、相続人が海外在住の場合の手続きと必要書類で詳しく説明しています。
相続登記の申請書や添付書類の記載例は、法務局の公式サイトで公開されています。ただし公開されているのは登記申請の様式であり、ご自身の相続にそのまま当てはまるとは限りません。様式を探すより先に、相続人と財産が確定しているかを確かめてください。
当事務所では、書式の配布ではなく、お手元の資料を拝見しながら、記載すべき内容と必要書類を一緒に整理するところからお手伝いしています。
協議書作成で特に注意したいケース
相続人の中に次のような方がいる場合、通常どおりに署名を集めてよいかを先に確認してください。誰が協議に参加するのかが変わるためです。
未成年の方・判断能力に不安のある方・行方不明の方がいる
いずれの場合も、その方を協議から外して進めることはできません。適切な代理を立てないまま作成した協議書は、後から有効性を争われることがあります。
- 未成年の相続人:通常は親権者が代理しますが、親も同じ相続の相続人である場合は代理できません。家庭裁判所に特別代理人を選んでもらう必要があります民法第826条。未成年のお子さんが2人以上いる場合は、それぞれに別の特別代理人が必要になることもあります。
- 判断能力に不安のある相続人:認知症と診断されていても、内容を理解して判断できるかは人によって異なります。判断する力が十分でない場合は、後見・保佐・補助などの制度を利用したうえで進めることになります。
- 行方不明の相続人:家庭裁判所に不在者財産管理人を選んでもらいます。管理人が遺産分割に加わるには、家庭裁判所の権限外行為の許可も別に必要です。
✏️当てはまる方はこちらへ
おなかの中に赤ちゃんがいる・相続分を譲った方がいる
次の2つは見落とされやすいケースです。
胎児がいる場合:法律上、胎児は相続についてはすでに生まれたものとみなされ民法第886条、相続人になります。ただし、死産だった場合はこの扱いが適用されないため民法第886条第2項、実務では生まれてから遺産分割協議を行います。出産を待たずに協議書を作ると、やり直しになる可能性があります。
相続分を譲った方がいる場合:遺産分割の前に、相続人の1人が自分の相続分を他の人に譲ることがあります。この場合、譲り受けた方が協議に参加します。譲った方だけで署名を集めても、合意した内容が有効になりません。なお、相続分が相続人以外の第三者に譲られたときは、他の相続人がその価額と費用を支払って取り戻せる制度があり、この権利は1か月以内に行使する必要があります民法第905条。
衣類・時計・アルバムなど、思い出の品を分ける「形見分け」は、遺産分割協議書に書かなくても差し支えありません。ただし、貴金属や骨とう品など財産としての価値があるものは、形見分けのつもりでも遺産分割の対象になります。価値の判断に迷うものは、協議書に含めておくほうが安全です。
作成後にやり直しはできる?
いったん成立した遺産分割は、一方的に撤回できません。相続人の1人が「やっぱり考え直したい」と言っても、それだけでやり直しにはなりません。
遺産分割の効力は、相続が始まった時点にさかのぼって生じるとされています民法第909条。署名・押印が済んで手続きが動き出した後で覆せるとすると、名義変更を受けた相手や取引の相手にも影響が及ぶためです。だからこそ、署名の前に内容を確認することが重要になります。
ただし、次の場合はやり直しができることがあります。
相続人全員が同意した場合
相続人全員が「もう一度話し合おう」と合意すれば、分け直すことは可能です。1人でも反対する方がいればできません。
全員の合意による分け直しは、税務上、相続ではなく相続人どうしの贈与や譲渡として扱われることがあります。その場合、贈与税や譲渡所得税がかかる可能性があります。税務上の取り扱いは事情によって変わるため、分け直す前に税理士にご確認ください。
だまされた・脅されたなど、合意そのものに問題があった場合
他の相続人にうそを言われて合意した、強く迫られて署名した、という場合は、その意思表示を取り消せることがあります民法第96条。また、重要な点を勘違いしたまま合意していた場合も、取り消せることがあります民法第95条。
ただし、どこまでが「勘違い」にあたるかの判断は簡単ではありません。争いになっている場合は、弁護士へのご相談を検討してください。
後から財産や相続人が見つかった場合
すでに終わった遺産分割がすべて白紙に戻るわけではありません。新しく見つかった財産について、あらためて相続人全員で分け方を決めるのが原則です。
この手間を避けるために、協議書の中で「この協議書に記載のない財産が見つかった場合は、誰が取得するか」をあらかじめ定めておく方法があります。記載漏れがあっても、もう一度全員から署名をもらわずに済む可能性があります。
一方、後から相続人が判明した場合は事情が異なります。その方が参加していない協議は成立していないことになるため、あらためて全員で話し合うことになります。相続人の確定を最初に行うのは、このためです。
よくある質問
- 遺産分割協議書は自分で作成できますか?
- 作成できます。資格は必要なく、相続人ご自身で作ってかまいません。相続人が配偶者と子だけで、財産も自宅と預貯金というケースであれば、ご自身で作成して手続きを終える方もいます。ただし、不動産が複数ある場合、代償金の支払いがある場合、相続人に未成年の方・判断能力に不安のある方・行方不明の方・外国籍の方・海外にお住まいの方がいる場合は、作成前に専門家への相談を検討してください。
- 遺産分割協議書がなくても預貯金は解約できますか?
- できる場合があります。金融機関によっては、相続人全員が署名・押印する所定の用紙が用意されており、それで手続きできることがあります。ただし取扱いは金融機関ごとに異なり、協議書を求められることもあります。取引先が複数ある場合は、協議書を作っておくほうが手間が少なくなります。
- 協議書を作った後に財産が見つかったらどうなりますか?
- すでに終わった遺産分割が白紙に戻るわけではなく、新しく見つかった財産について、あらためて相続人全員で分け方を決めるのが原則です。この手間を避けるため、協議書の中で「記載のない財産が見つかった場合は誰が取得するか」をあらかじめ定めておく方法があります。なお、後から相続人が判明した場合は事情が異なり、その方を含めて話し合いをやり直すことになります。
- 相続人全員の実印と印鑑登録証明書が必要ですか?
- 相続登記や金融機関の手続きで使う場合は、相続人全員が実印を押し、印鑑登録証明書を添えるのが基本です。実印は市区町村に印鑑登録した印鑑を指します。海外にお住まいで印鑑登録がない方は、署名証明など別の書類で対応することになります。印鑑登録証明書の有効期限の扱いは提出先によって異なります。
- 作成した遺産分割協議書はどこに提出しますか?
- 不動産の名義変更は法務局、預貯金の解約・払戻しは各金融機関、株式の名義変更は証券会社に提出します。相続税の申告では、分割内容に応じた特例などを使う場合に、協議書の写しを添えることがあります。提出先によって求められる添付書類が異なるため、1か所ずつ順に進めます。原本は返却を受けられる場合があり、同じ協議書を使い回せることもあります。
まとめ|書き始める前に、相続人と財産の確認から
遺産分割協議書でつまずく原因の多くは、書き方そのものより、その前の準備にあります。相続人が確定していない、財産の情報が手元にそろっていない——この状態でひな形を埋め始めると、書き直しと署名の集め直しが発生します。
逆に、戸籍で相続人を確定し、登記事項証明書や通帳で財産を確認できていれば、書き進めやすくなります。不動産は登記事項証明書のとおりに、預貯金は口座を特定して、という押さえどころを守れば、ご自身で作成できるケースもあります。それでも、財産の構成やご家族の事情によっては、どう書けばよいか判断に迷う場面が出てきます。
迷いやすいのは、相続人に未成年の方や判断能力に不安のある方がいる場合、代償金のやり取りがある場合、外国籍や海外在住の相続人がいる場合です。当てはまりそうだと感じたら、署名を集める前にご相談ください。作り直しになってから相談されるより、はるかに短い時間で終わります。
なお、そもそも話し合いがまとまらず協議書を作れる段階にない場合は、家庭裁判所の調停という方法があります。進め方は遺産分割の調停・審判で説明しています。
遺産分割協議書の作成でお困りではありませんか?
「この書き方で手続きできるか不安」「不動産の表示をどう書けばいいかわからない」「相続人に未成年者や海外在住の方がいる」——そんなときは、司法書士事務所神戸リーガルパートナーズにご相談ください。相続人と財産の確認から、協議書の作成、不動産の名義変更まで、状況に合わせてお手伝いします。お電話・メール・LINEからお気軽にお問い合わせください。
遠方の方・外出が難しい方はオンラインでのご相談も可能です
